IT投資1億円は高いのか?安いのか?5年間の費用構造と効果を徹底解説
IT投資の「高い」「安い」をどう見極めるか
ある企業が、1億円の初期投資を必要とするITプロジェクトを検討しています。その投資が果たして適切なものなのか、過剰なものなのか、経営層は慎重な検討を続けています。ランニングコストを含めた5年間の総コストは約2億円という試算ですが、これを「高い買い物」とするか「安い買い物」とするかは、投資がもたらす効果によって大きく異なります。
この企業では、以下のような選択肢が提示されています。
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パッケージベンダからの提案:初期費用3,000万円。ただし、アドオンやカスタマイズの範囲が明確ではなく、実際の総コストが見えない。
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スクラッチ開発の提案:別の会社から初期費用1億円で提案され、5年間で総額2億円が試算されている。
どちらを選択すべきか、またそもそも投資自体を進めるべきかの判断は、企業の戦略や目的次第です。本コラムでは、システム刷新にかかる費用構造やその効果を具体例なケーススタディをもとに分析し、経営判断の指針を示します。
統計データが示すIT投資の費用構造
ある統計によれば、IT投資の費用構造には以下のような傾向があります。
(参考元:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会の発表資料からの考察)
1.自社開発(スクラッチ開発)の特徴
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相対的に初期費用が高い(1億円を超える場合が多い)
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5年間の総額はランニングコストを含めると初期費用の約2倍に達する
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柔軟性が高く、自社の業務プロセスに最適化可能。ただし、要件定義やプロジェクト管理が不十分だとコスト超過や失敗のリスクがある
2.パッケージ導入の特徴
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初期費用は抑えられるが、保守やカスタマイズ部分のコストが膨らみやすい
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本体の保守費用は年間20%、カスタマイズ部分は年間10%が目安とされる
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カスタマイズの範囲が大きいほど、最終的なコストが膨らむリスクが高い
これを基に、試算をしてみましょう。たとえば、初期費用3,000万円のパッケージを導入した場合:
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本体保守費用(年間20%):3,000万円 × 20% × 5年 = 3,000万円
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カスタマイズ費用(初期2,500万円、保守費10%):2,500万円 × 10% × 5年 = 1,250万円
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総費用:初期費用3,000万円 + 保守費用4,250万円 = 7,250万円
一方で、自社開発の場合は次のような試算になります:
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初期費用:1億円
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ランニングコスト:1億円(5年間)
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総費用:初期費用1億円 + ランニングコスト1億円 = 2億円
これらの数字を単純に比較すると、パッケージ導入が安価に見えます。しかし、コストだけで判断するのは早計です。
【統計データを自社ケースにどう活かすか】
統計データは、統計的な傾向を示すものであり、全ての企業に当てはまるわけではありません。例えば、業種や規模、業務プロセスの違いにより、効果や費用は大きく変動します。しかし、以下のように参考にすることで有効活用できます。
1.参考にできる点
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費用構造(初期費用と保守費用の割合)をもとに、自社のシステムにかかる全体のコストを試算する
- カスタマイズや保守の比率を見積もる際の指標として活用する
2.限定的な点
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自社の業務フローやITリソース、投資目的によって費用や効果は大きく異なる
- 例: 同じ費用構造でも、売上増加が期待できる業種とそうでない業種では投資価値が変わる。
初期費用が安くても「高い買い物」になるケース
IT投資は、費用が低ければ有利というわけではありません。以下のような場合、初期費用を抑えた投資でも「高い買い物」になるリスクがあります。
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カスタマイズ範囲が曖昧で、総コストが膨らむ場合
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パッケージ導入では、業務要件を満たすためのアドオンやカスタマイズが必要となることが多い
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例: 初期費用3000万円のはずが、カスタマイズとその保守費用を加算すると総額が1億円を超える
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導入効果が得られない場合
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売上増加やコスト削減の明確な効果が得られなければ、いかに低コストでも「高い買い物」となる
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例: 営業支援ツールが現場で活用されず、データ入力が手間になるだけのケース
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プロジェクト失敗による損失
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要件定義が不十分で、導入したシステムが業務に適合せず使用されない。初期費用が安価でも全額が損失となる
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例: 導入プロジェクトが頓挫し、特別損失を計上せざるを得ない。さらに別のシステム再構築が必要になる二重投資の事態
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5年間で2億円が「安い買い物」になる条件
初期費用が高額であっても、投資対効果が十分に見通せる場合は「安い買い物」となります。具体的な要因を以下に挙げます。
売上増加の要因
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リアルタイム化と意思決定のスピードアップ
データの可視化によって経営層が迅速な判断を行い、機会損失を削減 -
営業効率化
営業支援ツールにより、営業担当者が提案活動や顧客フォローに専念できる時間を確保
ケーススタディ:年商40億円の企業でIT刷新を行った場合
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売上増加効果
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年間売上が2%増加。40億円 × 2% = 年間8,000万円の増収
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5年間で総計 4億円 の売上増加効果
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営業効率化効果
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営業1人あたり月40時間の工数削減が実現(年間500時間)
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営業時間が20%増加し、売上が年間2000万円増加
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営業チーム10人で年間2億円の売上増加。5年間で総計 10億円 の増収効果。
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これらを合わせると、5年間で14億円の効果が見込まれ、2億円の投資は十分に「安い買い物」と言えます。
IT投資は「高い」「安い」ではなく「価値ある」かで考える
IT投資の判断基準は、単なるコスト比較ではなく、「投資額に見合う価値を生むか」 にあります。
年間売上2%の増加や営業効率化によるコスト削減を考慮すれば、2億円のIT投資が「安い買い物」になるケースは多いのです。
経営者が注目すべきなのは、投資後の「数値で示せる効果」と「中長期的な価値」。次の一手を打つ際には、「金額」ではなく「成果」に目を向け、効果を見据えた計画を立てることが重要です。IT投資を成功に導く視点を持ち、次の一手に活かしていただけると幸いです。
この記事を書いた人について
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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。
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