IT投資の効果は誰が決めるのか―――ノジマ流経営に見る『現場に任せる判断』

家電量販店大手・ノジマの野島廣司社長が、IT投資についてこんな発言をされていました。

当社の場合、経営者は(投資対効果を)考えません。全部現場が考えます。
現場が「これをやったら、このくらいの効果が出ます」と言ってきたら、「よし、やっちゃえ」と。
もし効果が出なかったら「お前また失敗したな。でも今度また頑張れよ」と。
出典:日経コンピュータ

非常に興味深いのは、この話が、「経営者が全部理解している」という話ではないことです。
むしろ逆で、経営者がITの専門家でなくても、関与の仕方はあるという点に、本質があります。

「経営者は判断するのが仕事」──ノジマ社長の言葉が示すもの

この発言を表面的に捉えると、「現場任せの会社」という印象を受けるかもしれません。しかし実際にはそうではありません。

野島社長は「現場が考える」と言っていますが、「現場が決める」とは言っていません。
現場が提案し、経営者が判断する。その役割分担が非常に明確なのです。

IT投資に限らず、経営の現場では常に様々な提案が上がってきます。

  • 新しいシステムを導入したい
  • 業務を改善したい
  • 新しいサービスを始めたい

会社全体の優先順位や経営資源の配分を考えながら、最終的に実行するかどうかを決めるのは経営者の役割です。経営者の仕事は、自ら詳細を調査して専門家以上の知識を身につけることではありません。必要な情報を受け取り、会社として進む方向を決めることです。だからこそ、「よし、やっちゃえ」と言えるのです。

現場は「社長が判断できる言葉」に変換している

日経コンピュータ2026.04.28より引用(写真:村田 和聡氏)

もう一つ注目したいのは、現場側の役割です。ノジマの現場は、単に要望を出しているわけではありません。

「新しいシステムが欲しい」ではなく、

  • 「これを導入すれば受注件数が増える」
  • 「顧客満足度が上がる」
  • 「業務時間を削減できる」

という形で提案しています。自分たちのやりたいことを、経営者が判断できる言葉に変換しているのです。

実は、多くの企業でこの作業が抜け落ちています。

  • 現場は「必要だから導入したい」と言う
  • 経営者は「それでいくら儲かるのか」と聞く
  • 現場はうまく説明できない
  • 結果として議論が止まる

この構図は珍しくありません。IT投資が進まない理由は、技術や予算ではなく、判断材料が整理されていないことにある場合も少なくないのです。

ノジマの現場が行っているのは、単なる技術説明ではありません。

  • 顧客にどんなメリットがあるのか
  • 売上や業務にどう効くのか
  • 何がどのくらい改善されるのか

これらを整理し、「経営判断できる状態」まで仕上げて提案するという、難易度の高い作業です。しかしだからこそ、このプロセスこそが極めて重要なのだと思います。

「専門家に任せる」と「判断を放棄する」は違う

ITプロジェクトになると、「専門家に任せています」という言葉を耳にすることがあります。もちろん、それ自体は間違いではありません。ITの技術は専門性が高く、ベンダや技術者の知見は不可欠です。

しかし、専門家に任せることと、判断を委ねることは別の話です。

ベンダが担えるのは、技術面の助言です。

  • どの技術を採用すべきか
  • どのような設計が望ましいか

一方、以下は経営の領域です。

  • 何を優先するのか
  • どこまで投資するのか
  • 何を諦めるのか

ここを曖昧にしたまま進めると、「ベンダの言う通りに作ったが、思っていたものと違った」という結果になりやすくなります。実際には、ベンダが失敗したというよりも、判断すべきことが判断されないまま進んでしまったケースも少なくありません。

ノジマの話が示しているのは、

技術は専門家に任せる。
しかし、最終判断は経営が持つ。

という構造です。つまり、

  • 現場は考える
  • 現場は整理する
  • 現場は翻訳する
  • その上で、経営が判断する

という役割分担です。

ここには、「ITは難しいから分からない」で終わらせない姿勢があります。

「トップが判断する」と言い切っている重み

そしてもう一つ重要なのは、
ノジマ社長が、「経営者は判断するのが仕事」と明言していることです。

投資は成功することもあれば、失敗することもあります。どれほど慎重に検討しても、結果はやってみなければ分からない部分があります。それでも最後は経営者が決め、失敗したら責任を負う。だからこそ、現場は自由に提案できるのです。

もし経営者自身が判断を避け、「専門家がそう言ったから」「ベンダが提案したから」という姿勢になれば、組織全体が責任の所在を見失います。

トップが判断する。一見当たり前のことですが、実は簡単なことではありません。だからこそ、この言葉には重みがあるのだと思います。

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  • 技術力不足
  • ベンダ選定の失敗
  • 要件定義の不備

もちろん、それらも重要です。しかし私は、それ以前に「誰が、何を基準に判断するのか」が整理されていないことこそ、多くの失敗の根本原因ではないかと感じています。

  • 現場が提案する
  • 経営が判断する
  • 専門家はその判断を支援する

それぞれの役割が整理されたとき、初めてプロジェクトは前に進みます。

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この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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