「価値」を中心に据えたRFPの三層構造――比較可能性を担保するRFPテンプレートの考え方

システム導入や基幹システム再構築のプロジェクトでは、複数のベンダから提案を受けて比較検討することが一般的です。発注側としては、できるだけ多くの提案を集め、その中から最も自社に合った一社を選びたいと考えるはずです。
しかし実際のプロジェクトの現場では、提案を集めた結果、むしろ判断が難しくなってしまうケースが少なくありません。具体的には、次のような状況です。
- 提案内容がバラバラで比較できない
- 見積金額が大きく異なる
- どの提案が自社に合っているのかわからない
- 最終的に「なんとなく」で決めてしまう
私たちもRFP作成支援やベンダ選定支援を行う中で、「提案は集まったが、むしろ判断できなくなった」というご相談を数多く受けてきました。提案件数は十分にあり、各ベンダも誠実に検討して提案書を作成しているにもかかわらず、最終的な決定の場面で行き詰まってしまうのです。
こうした状況になると、多くの企業は「ベンダの提案の質が低い」「説明が不十分だ」といった形で、原因をベンダ側に求めてしまいます。しかし実際には、問題の本質は別のところにあります。それは、比較可能な状態が設計されていないことです。
今回は、私たちがRFP作成支援の現場で重視している「比較可能性を担保するRFPテンプレート」という考え方についてご紹介します。
なぜ提案書は比較できなくなるのか
RFPを発行すると、各ベンダは自社の経験や強みに基づいて提案を作成します。これは決して悪いことではなく、むしろベンダとしては当然の姿勢です。例えば同じ基幹システム再構築案件であっても、ある会社は業務改革を重視した提案を行い、ある会社はパッケージ導入を前提とした提案を行い、別の会社はフルスクラッチ開発による提案を行うかもしれません。
それぞれの提案には、提案元のベンダなりの合理性があります。むしろ優秀なベンダほど、自社の得意領域を活かし、独自の視点を加えた提案を行う傾向があります。これはベンダ選定における大きなメリットであり、本来であれば歓迎すべきことです。
しかし発注側からすると、こうした多様な提案を前にして「結局どれが良いのかわからない」という状態に陥りがちです。なぜそうなるのでしょうか。理由は、提案内容そのものだけでなく、見積条件や対象範囲、前提条件までもがベンダごとに異なっているためです。つまり、比較しようとしているもの自体が揃っていないのです。土台が異なる提案を並べて優劣を判断しようとしても、本来は成立しないはずの比較を無理に行っていることになります。
実際にあった「比較できないRFP」の事例
以前、私たちが支援した基幹システム再構築案件を例に挙げます。業種は伏せますが、全国展開する企業で、予算規模としては1億円前後を想定したプロジェクトでした。
複数のベンダへ提案依頼を行ったところ、提示された見積金額は以下のようになりました。
- 約8,000万円
- 約1億2,000万円
- 約1億8,000万円
最も安い提案と最も高い提案の間には、最大で2倍以上の差がありました。一見すると「高すぎる会社がある」「逆に安すぎて不安な会社がある」ように見えるかもしれません。実際、発注側の担当者の方々も、最初にこの金額差を見たときは戸惑いを隠せませんでした。
しかし提案内容を一つひとつ丁寧に確認すると、実態は全く異なるものでした。8,000万円の提案では、一部の業務を現行運用のまま残し、システム化の対象を絞り込む前提になっていました。一方、1億8,000万円の提案では、将来的な事業拡大やグループ展開まで見据えた設計が含まれており、対象範囲そのものが大きく異なっていたのです。
つまりこれは価格差の問題ではなく、対象範囲そのものが違っていたということです。この状態では、そもそも比較は成立しません。価格だけを見て判断すれば、金額の大きい提案は不利に映ります。しかし、将来的な投資効果やシステムの寿命まで含めて評価すれば、結論は変わってくるかもしれません。
問題は金額差ではなく、比較条件が揃っていないことにあります。この前提を見落としたまま価格だけで判断してしまうと、本来選ぶべきだった提案を見送ってしまう可能性すらあるのです。
私たちは「比較可能性」を設計する
RFP作成支援というと、「RFPを書く仕事」だと思われることがあります。確かに文書を作成すること自体も業務の一部ですが、私たちが本当に行っているのは比較可能性を設計することです。具体的には、発注側が事前に揃えるべき項目と、ベンダの裁量に委ねるべき項目を明確に切り分けて定義します。
発注側が揃えるべきもの
- プロジェクトの目的
- 対象範囲
- 前提条件
- 制約条件
- スケジュール
- 評価基準
- 提案依頼事項
これらは、どのベンダに対しても同じ条件で示すべき項目です。発注側がここを曖昧にしたまま提案を依頼すると、ベンダはそれぞれ異なる解釈で前提を補い、結果として比較できない提案が集まることになります。
ベンダに委ねるもの
- 製品選定
- 技術選定
- 実現方式
- 導入アプローチ
これらについては、あえて自由度を残します。ベンダの創意工夫まで細かく縛ってしまうと、提案の価値そのものが失われてしまうためです。重要なのは、揃えるべきものと、揃えないものを整理することです。すべてを発注側で固めようとするのではなく、比較の軸となる部分だけを揃え、残りはベンダの専門性に委ねる。このバランス設計こそが、比較可能性の出発点になります。
比較可能性を担保するRFPテンプレートとは何か
私たちはRFPテンプレートを、単なる文書のひな形とは考えていません。RFPテンプレートとは、発注側の判断軸を整理するためのフレームワークです。
実際に多くのRFPでは、次のような項目が中心になっています。
- システム概要
- 機能一覧
- 画面一覧
これらの情報も必要ではありますが、それだけでは比較可能性は生まれません。機能や画面の一覧をいくら詳細に作り込んでも、判断の軸が定まっていなければ、提案同士を正しく比べることはできないのです。私たちが重視しているのは、「何を作るか」ではなく、「何を基準に判断するか」という視点です。
① なぜ投資するのか
最初に整理するべきなのは投資目的です。例えば、次のようなものが挙げられます。
- 属人化を解消したい
- グループ経営を強化したい
- 業務効率を改善したい
- 事業拡大に備えたい
この部分が曖昧だと、ベンダごとに異なる前提で提案が作られてしまいます。投資目的という最上位の問いに対する答えが揃っていなければ、その後のどの項目を整理しても、結局は土台がずれたままになってしまいます。
② どこまでを対象にするのか
次に対象範囲を明確にします。例えば、次のような観点で範囲を定義します。
- 対象業務
- 対象部門
- 対象拠点
- 対象会社
- 対象期間
ここが曖昧なままでは、同じ案件であっても見積金額は大きく変わります。先ほどの事例で見たように、対象範囲の解釈がベンダごとに異なれば、その時点で見積金額の単純比較は意味を持たなくなってしまいます。
③ 何を評価するのか
評価基準も重要な要素です。例えば、次のような項目が考えられます。
- 機能適合性
- 導入実績
- 推進体制
- 費用
- 保守運用性
- 将来拡張性
評価基準を事前に定義しておくことで、提案書を同じ物差しで比較できるようになります。逆に、評価基準を提案を受け取った後から決めてしまうと、後付けの理屈で評価をねじ曲げてしまうリスクが生まれます。事前に基準を固めておくことは、判断の客観性を守るためにも欠かせません。
④ 何をベンダに委ねるのか
一方で、全てを発注側が決める必要はありません。例えば、次のような領域はベンダの知見を活かすべき部分です。
- パッケージ選定
- 技術選定
- 導入方式
- 実現アプローチ
発注側が決めるべきことと、ベンダに委ねるべきことを分けることが重要です。この切り分けが明確であるほど、ベンダは自社の強みを活かした提案を作りやすくなり、発注側はその提案を正しい軸で評価しやすくなります。
「価値 → 業務 → システム」の三層構造
こうした比較可能性を実現するために、私たちが活用しているのが「価値 → 業務 → システム」という三層構造です。この三層を上から順に整理していくことで、発注側とベンダの間で議論の前提がずれることを防ぎます。
第一層:価値
最上位に置くのは価値です。例えば、次のようなものが挙げられます。
- 売上向上
- 利益改善
- 業務効率化
- 顧客満足度向上
- 内部統制強化
システム導入の目的はシステムではなく価値です。この前提を関係者全員が共有していなければ、議論はどうしても機能や仕様といった目先の話に流れてしまいます。
第二層:業務
次に、その価値を実現するために必要な業務を整理します。代表的なものとしては、次のような業務が挙げられます。
- 受発注
- 生産管理
- 在庫管理
- 会計管理
業務が整理されていない状態でシステムを議論すると、手段が目的化しやすくなります。「何のためにこの機能が必要なのか」を業務レベルで説明できなければ、要件は次第に肥大化し、本来不要だった機能まで盛り込まれてしまうことも珍しくありません。
第三層:システム
最後にシステム要件を整理します。例えば、次のような項目です。
- 画面
- 帳票
- インターフェース
- インフラ
- セキュリティ
一般的なRFPではここから書き始めることもありますが、本来は三層目に位置する情報です。価値と業務の整理を経たうえでシステム要件を定義することで、初めて要件に根拠が生まれ、ベンダ側もその根拠に基づいた提案を作りやすくなります。
ベンダを競わせるのではなく、共通ルールに乗せる
RFPの目的はベンダを競わせることではありません。共通ルールの上で提案してもらうことです。サッカーでも野球でも、ルールがなければ勝敗は決まりません。選手の能力をどれだけ正しく見極めようとしても、競技のルールそのものが定まっていなければ、優劣を判断する土台が成立しないのです。RFPも同じです。
比較可能性とは、競争条件を揃えることによって初めて成立します。そして比較可能性が高まるほど、提案評価の納得感も高まります。発注側にとっては、選定結果そのものだけでなく、選定のプロセスに対する納得感が、後のプロジェクト推進力にも大きく影響してきます。
発注側に必要なのは「正解」ではなく「納得できる判断」
私たちはベンダ選定において、「正解を探すこと」よりも、「納得できる判断を行うこと」が重要だと考えています。未来は誰にも分かりません。どのベンダを選んでも成功する可能性もあれば、失敗する可能性もあります。
しかし、次のことを後から説明できる状態を作ることはできます。
- なぜそのベンダを選んだのか
- なぜその方式を採用したのか
- なぜその投資を決断したのか
そのために必要なのが比較可能性です。比較可能性があるからこそ、判断に根拠が生まれます。結果がどうなるかは誰にも保証できませんが、判断のプロセスに筋道が通っていれば、その判断は社内外の関係者からも納得を得やすくなります。
関連資料
「比較可能性を担保するRFPテンプレート」の考え方
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この記事を書いた人について

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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。






















