「まずは見積もりを」の落とし穴

2017/03/13

見積もりは必ずブレるものである

たとえば、家を建てる場合なら、まず設計士さんあたりと打ち合わせして、見積もりを貰います。その際、希望を伝えれば、ある程度は「お任せ」となります。設計図面や完成スケッチ、サンプル材料確認の段階で、施行主が合意すれば、あとはどんどん先に進めてくれます。ある程度のスペックが定まっており、仕入れ材料が予算のおおよその決定要素となることから、その後、おおきく予算がズレることはありません。工期途中からの設計変更が無ければ、ほとんどの場合最初の見積もりどおりに仕事を仕上げてくれるでしょう。

さて、システム開発の場合は、家屋建築や工業製品の生産のように、正確に見積もり予測を立てることは難しいのでしょうか。 システム開発工程での品質と予算管理の研究は昔から行われていますが、未だ画期的な方法は出てきていないようです。 システムは、「目に見えるカタチがないから」、「具体的な最終形のカタチで両者が打ち合わせできないから」・・・。

タマゴが先かニワトリが先か

できない理由はいろいろありそうですが、私はこのように考えます。 それは、「システムそのもの」が主体ではない、ということです。システムを作ることを手段として、その開発作業に予算を付けるわけなので、納品されるシステムが、その主役ではないというのは、ちょっと違和感がありますね。 もっと突き詰めると、「ビジネスをどう進めるか」、「業務をどうやるか」が主体であり、それにシステムがついていく、という感じのものです。

そして「システムがついていく」という部分が実は曲者なのですが、技術というものがまず介在して機能が実現していくという流れになります。言い換えると、システムとは「ビジネスと技術が表裏一体となった仕組み構造」と表現できます。

こういったものをつくる場合、まず、依頼者だけで100%正しい要件を出すのは無理でしょう。そもそも「システムに求める要件は何ですか?」と聞かれたところで困ってしまうのがオチです。また、システム屋だけでも、100%正しい要件を導くことはできません。

詰めないと見積もりに必要な要件は出ない

さらに、もうひとつ問題があります。現場の業務の話もきちんと聞いておかなくてはなりません。また要件を決めていくときに、現場の意見から、ヒントとなる情報をすくいあげて、要件に入れ込んでいく必要があります。依頼者だけで決め切れない内容が沢山あるということです。

1回の打ち合わせで、

・何を作るのか(逆に何を作らないのか)
・誰のためにどのような機能要件が必要なのか
・それをどうやって廻していくのか
・それにはどれくらいの強度(堅牢性、安定性、安全性…)が必要なのか

について決めるのは、まず無理でしょう。

リスクを負う人は誰か?

商談のときに、見積もりを求めると、喜んで持ってきてくれるシステム屋が多いのは、本当に由々しいのですが、その見積もりは必ず後でブレることを念頭においてください。ちなみにブレたときは、追加請求される場合もありますし、システム屋のほうが被る場合もあります。いずれにしても、依頼者かシステム屋のどちらかにリスクが偏ります。

また、システム屋によっては、あらかじめ多めに見積もるところもあります。 依頼者にとって予算オーバーなら値下げを要求するでしょうし、許容範囲ならそれで契約する場合もあるでしょう。その場合、実際にシステム化する必要が無い部分が、実はあったとしても、その分が返金されるわけではありません。
ちなみに、そこをコンピュータでやっても意味がないので、その部分は運用でカバーしましょう、なんてことを言ってくれるシステム屋はほんの少数です。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。