「ウチのシステムは一体いくらかかるのか?」を統計で考えてみる

2020/07/22

隣のライバル企業はITにどれだけ投資しているのか

自社のIT構築にあたって、誰もが真っ先に直面する課題があります。
それは「予算は一体どれ位を見込めば良いだろうか?」です。

今はどの企業もITを使って仕事をしていますが、その構築にどれくらいかかったか、という情報は一般には公開されていません。
それぞれの企業の営業秘密ですから、他社を参考にしたくても、情報を取るのがなかなか難しい。

かと言ってベンダを呼んで概算を作って貰っても、その金額が妥当かどうか分からないのが実情です。

そもそも構築費の概算は、ベンダのビジネスモデルによって大きく変わるため、誰に頼むかで違ってきます。
またIT化という仕事は「概念」を形をすることでもあります。伝え方や情報の中身によってベンダ側の概念の捉え方も変わりますし、概念をどう捉えるかは相手次第でもあります。こういった事情で概算は大きく変わるものなのです。

ですので、この「予算感」というものは、ベンダに解を求めるものではなく、自ら経営感覚を持って定めていくものと言えるでしょう。

調査データは予算稟議でも役に立つ

自らの感覚とは言っても、もしITに土地勘や経験がない場合、何らかの手掛かりが欲しいものです。
言うならば指標もしくは基準値といったものです。
出発点が無いと検討が始まらず、また他の何と比較すること無しにモノゴトは判断しにくいものです。
しかし他社をベンチマークしたくても公開されてはいません。

では、一体どこに指標を求めれば良いでしょうか。

その有力解のひとつが「調査データ」です。
各行政機関が発表しているデータには有益な情報が含まれています。この情報をうまく使うと、国内企業における経営資源別の売上高投資比率を推定することができます。
さらに産業別、企業規模別(大企業、中堅中小など)など、その調査目的によって様々な軸があり、セグメント別の平均値を導くことができます。

それでは一例として総務省統計局が発表している情報から得られた数値を見ていきましょう。

・日本の企業の総売上高  1300兆円
・うち中小企業の総売上高  500兆円

・日本のIT市場規模      12兆円
・うち中小企業のIT市場規模   4兆円

※総務省統計より引用

ここから企業の年間売上高に占めるIT投資比率を推定できます。国内企業全体でみれば売上高投資比率は1%弱であることが分かります。
ちなみにこの数値は中小企業分野でも概ね変わりません。仮に年商100億円の企業は年間で1憶円のIT投資をしていることになります。

なおIT市場規模としての調査データですから、そこには機器や回線、アプリケーション、それぞれの初期導入とランニング費用、教育費などIT市場に属する様々なものが入っています。
しかし大きな基準としては使える情報ではないでしょうか。

例えば総額5千万のシステム構築プロジェクトを役員会に諮るときに、年商80億円の企業であれば国内統計の1%基準よりも控え目な予算計画だと説明することができます。稟議書に省庁による調査データを加えておけばそれが客観材料になります。
このような指標が無いと「そんなにかかるのか?高いからもっと安くするように工夫しろ」という感覚的な議論にしかなりません。

【補足】ちなみに売上高投資比率は業界により差が大きいことが分かっています。金融産業のIT予算比率が7.82%と高く、逆に建設・土木産業での比率は0.49%。と言われています。

ところでIT以外の経営資源の売上高比率はどうなのか、人件費とか地代家賃とか

ITというものはマネジメント層にとって予算の掴みどころに苦労するという話しをしました。一方で掴みどころがあるものの筆頭としては、人件費や地代家賃というものがあるでしょう。わざわざ調査データに頼らなくても身体感覚的に高い安いが分かるものです。

それでは企業の経営資源として人材や仕事をするためのオフィス環境そしてITが存在するときに、コンピュータやソフトウェアの投資比率は、企業の数々の経営資源の中で高いほうでしょうか、低いほうでしょうか?
これをデータで見ていくことにしましょう。

まずは人件費から見ていきます。次の表は中小企業庁による中小企業実態基本調査結果です。

※法人企業統計年報より引用

このデータによれば売上高に占める人件費率は14%です。
(注:人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)

あと参考までにですが、経済産業省が発表しているデータの中に「売上高販管費率」を軸としたものがありますが、こちらは21%となっています。調査組織や目的が違うとデータも違うことを承知のうえで見れば、販管費のうち人件費以外のものに7%使っているという見方も可能です。

次に地代家賃についても、同じく中小企業庁による中小企業実態基本調査のデータがあります。

企業の地代家賃に掛ける割合は業種や従業員数によって異なる
・建設業 0.5〜1.1%
・製造業 0.4〜1.8%
・情報通信業 1.2〜3.2%
・運輸業 0.9〜1.3%
・卸売業 0.6〜0.8%
・不動産業・物品賃貸業 1.5〜6.6%
・学術研究、専門・技術サービス業 1.6〜3.2%
・生活関連サービス業・娯楽業 1.9〜4.2%
・サービス業 1.2〜2.2%

※中小企業実態基本調査(中小企業庁)より

こちらによれば売上高に占める地代家賃の割合は、業種によって随分異なりますが、全体平均で1.3%であることが分かります。
(また同調査には「従業員規模が小さいほど、売上高に対する地代家賃の割合が高くなる傾向がある」という補足も加えられています)

 

IT投資比率の高い企業は本当に成果を上げているのか

企業の経営資源のうちコンピュータやソフトウェアの投資比率は、数ある経営資源の中でも高価と言われています。
しかし平均値として導いた売上高IT投資比率で見れば、人件費の14分の1、地代家賃とほぼイコールとなっており、一般的に言われるほど飛び抜けて高価とは一概には言えないようです。

それでは次は世界と比べてみることにします。
国内企業全体の売上高IT投資比率の1%は、世界水準と比べる高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか?

ガートナー社(2012年調査)によれば欧米企業の売上投資率は約3.6%というデータがありました。日本企業の3.6倍もコンピュータやソフトウェアに投じているということです。もっともGoogleやAmazonといったガリバー企業が平均を押し上げているのかもしれませんが、控え目に見て3倍のIT力の差があると捉えて差し支えないでしょう。

この3%台の数字はかなりITにコミットした金額だと思われます。翻って日本で同レベルでコミットしている企業はないのでしょうか?
と思っていたところカインズホームの記事が目に飛び込んだきましたのでご紹介します。
なんでも年間売上高の2.3~3.4%に相当する額をIT投資するそうです。
「カインズはIT小売業を目指す、怒濤のデジタル攻勢が始動」

「小売業界に属するカインズの基本的な事業モデルは今後も変わりません。しかし、外部的にも内部的にも当社を取り巻く環境が厳しさを増す中、ビジネスをより進化させる何かしらの施策を講じていく必要があります。その有効な手段がデジタル戦略であり、店舗で行ってきた従来のビジネスを拡張することです」
店舗にテクノロジーを導入することで、“店舗の物理的な制約から解放される”と池照さんは話す。

ITmedhia「カインズが“IT小売企業”に生まれ変わる ホームセンターの未来を変えるデジタル戦略」より

なおIT投資比率の高い企業は本当に成果を上げているかどうかの調査結果があり、以下のグラフは、IT投資有無別の企業の経常利益の違いを示しています。

中小企業庁統計より引用

なお2020年以降のデータも欲しいところ。ユーザー環境やリテラシー、利用機会の変化で、企業のIT投資も今後はもっと拡大すると思います。その兆候は既にデータに表れてきているはずですから。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。