ベンダを使いながら内製化する方法──外注依存から「自社主導」へ変える実務論

内製化とは「ベンダを使わない」ことではない
「システムを内製化したい」という相談を受ける機会が増えています。
背景には、開発会社やベンダに任せきりになってしまい、自社のシステムなのに中身が分からない、改修のたびに高額な見積りが出てくる、何かを変えようとしても都度ベンダに確認しなければならない、といった問題があります。
そのため、多くの企業は内製化と聞くと、次のように考えます。
- 自社でエンジニアを採用すること
- 開発を社内で行うこと
- ベンダへの外注をやめること
- 情報システム部門を強化すること
もちろん、それらが有効な場合もあります。しかし、内製化の本質は、開発作業をすべて社内で行うことではありません。
内製化とは、ベンダを使わないことではなく、自社で舵取りできる状態をつくることです。
システム開発や保守運用において、外部の力を借りること自体は問題ではありません。
むしろ、すべてを自社だけで抱えることは、多くの企業にとって現実的ではありません。
技術領域は広がり続け、セキュリティ、クラウド、データ連携、業務アプリケーション、生成AI活用など、必要な専門性も増えています。
問題は、ベンダを使っていることではありません。問題は、ベンダがいなければ自社で舵取りできない状態になっていることです。
どこへ向かうのか、何を優先するのか——こうした判断を自社が持てているかどうかが分かれ目になります。
- どこへ向かうのか
- 何を優先するのか
- どこまで投資するのか
- どの提案を採用するのか
- 何を見送り、何を残すのか
こうした判断まで外部に委ねてしまうと、自社のシステムでありながら、実質的にはベンダ主導の状態になります。
本記事では、ベンダを排除するのではなく、ベンダを使いながら外注依存から抜け出し、自社主導でシステムを動かしていくための実務論を解説します。内製化そのものの考え方については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
▶システム内製化を阻む本当の壁──エンジニア不足ではなく『判断できない組織』の問題
なぜ「ベンダを使っている=内製化できていない」ではないのか
内製化を考えるときに、まず整理すべきことがあります。それは、外部リソースを活用することと、外注依存に陥ることは違う、という点です。
ベンダに開発を依頼していても、自社が目的を定め、優先順位を決め、投資判断を行い、提案の妥当性を評価できていれば、それは自社主導の状態です。
一方で、社内にエンジニアがいたとしても、何を作るべきか、どの機能を優先すべきか、どの方式を採用すべきかを自社で決められないのであれば、それは本質的には内製化できているとは言えません。
見た目の体制と、実態としての主導権は別物です。たとえば、次のような違いがあります。
| 状態 | 一見の姿 | 実態 |
|---|---|---|
| 外注依存 | ベンダが開発している | 舵取りもベンダ任せ |
| 自社主導 | ベンダが開発している | 舵取りは自社が行う |
| 形式的な内製化 | 社内エンジニアがいる | 目的や優先順位を決められない |
| 本質的な内製化 | 社内外の力を使う | 自社が考え、決め、進められる |
つまり、内製化の本質は「誰が手を動かしているか」ではありません。「誰が舵を握っているか」です。
次のような役割は、外に出しても構いません。
- 開発作業の実務
- 保守運用をベンダに任せること
- 専門技術について外部の知見を借りること
しかし、目的、優先順位、投資判断、要件の取捨選択まで外に出してしまうと、自社のシステムでありながら、自社が主導できない状態になります。外注していることが問題なのではありません。外注先がいないと舵取りできないことが問題なのです。
外注依存が起きる本当の理由
外注依存というと、ベンダ側に問題があるように語られることがあります。
- 「ベンダが囲い込んでいる」
- 「仕様を開示してくれない」
- 「見積りが高い」
- 「言われたことしかやってくれない」
- 「提案が分かりにくい」
もちろん、ベンダ側に改善すべき点がある場合もあります。
しかし、外注依存の原因をすべてベンダ側に求めてしまうと、問題の本質を見誤ります。
多くの場合、外注依存が起きる背景には、自社側に舵取りの材料がないという問題があります。たとえば、次のような状態です。
- 業務要件を自社で整理できていない
- 現行システムの全体像を把握していない
- どのシステムがどの業務を支えているか分からない
- データの流れが分からない
- 改修時の影響範囲を判断できない
- ベンダ提案の妥当性を評価できない
- 投資判断の基準がない
- 優先順位を社内で決められない
- 成果物や設計書が社内資産として残っていない
このような状態では、ベンダに相談するしかありません。
そして、相談を繰り返すうちに、いつの間にかベンダが前提を決め、ベンダが選択肢を示し、ベンダが実質的な方向性を決めるようになります。その結果、自社は「承認する側」になります。
一見すると、自社が決裁しているように見えます。しかし実際には、判断材料も選択肢もベンダから提示されているため、自社はその中から選ばされているだけ、という状態になりがちです。
外注依存の正体は、技術不足だけではありません。むしろ本質は、舵取りの材料が社内にないことです。
- 自社が何をしたいのか
- なぜそれが必要なのか
- どの業務に影響するのか
- どれくらいの投資価値があるのか
- どの選択肢が自社に合っているのか
これらを整理できないままベンダに依頼すれば、プロジェクトの主導権は自然に外へ移っていきます。
ベンダを使いながら内製化するための基本方針

ベンダを使いながら内製化するには、まず考え方を変える必要があります。
それは、作業は外に出してもよいが、舵取りまで外に出してはいけない、という考え方です。
自社が持つべきものと、ベンダに任せてよいものを分けることが重要です。
自社が持つべきものは、たとえば次のようなものです。
- システムの目的
- 業務課題の整理
- 優先順位
- 投資判断
- 要件の最終決定
- ベンダ選定基準
- 成果物の評価基準
- 中長期のシステム方針
- システムに関する意思決定の履歴
一方で、ベンダに任せてよいものもあります。
- 詳細設計
- 開発作業
- テスト実施
- 技術調査
- インフラ構築
- 保守運用作業
- 専門技術領域の実装
- 技術的な選択肢の提示
ベンダは不要なのではありません。むしろ、優れたベンダは必要です。
ただし、ベンダの役割は、発注側の代わりに舵を取ることではなく、自社が進むべき方向を決め、その実現に必要な専門性や実行力を提供してもらうことです。
内製化で社内に残すべきなのは、必ずしも「手」ではありません。
本当に残すべきなのは、「頭」であり、「舵」であり、「決める力」です。
自社主導に変えるために整えるべき5つのもの
では、ベンダを使いながら自社主導に変えていくには、何を整えればよいのでしょうか。
ここでは、実務上重要な5つのポイントを整理します。
1. 業務とシステムの全体像を可視化する
まず必要なのは、現状の可視化です。
- どの業務で、どのシステムを使っているのか
- どの部署が、どのデータを入力しているのか
- どの情報が、どこで参照されているのか
- システム間で、どのようなデータ連携が行われているのか
- どこが手作業になっているのか
- どこが属人化しているのか
- どこに二重入力や確認作業が発生しているのか
これらが見えていない状態では、ベンダから提案を受けても、その妥当性を判断できません。
たとえば、ベンダから「この機能を追加した方がよい」と提案されたとします。
そのとき、自社側が業務全体を把握していなければ、それが本当に必要なのか、どの部署に影響するのか、既存業務を複雑にしないか、将来的な運用負荷が増えないかを判断できません。
その結果、「ベンダが必要と言っているから必要なのだろう」という判断になります。
これは自社主導ではありません。
全体像を持たないままベンダに相談すると、相談内容そのものがベンダ任せになります。
まずは、業務とシステムの地図を自社で持つことが必要です。
2. 要件を「要望の一覧」ではなく「判断可能な形」に整理する
システム開発では、現場から多くの要望が出ます。
- この画面を使いやすくしてほしい
- この項目を追加してほしい
- この承認フローに対応してほしい
- この帳票を出したい
- このデータを見たい
- この作業を自動化したい
もちろん、現場の要望を聞くことは大切です。
しかし、要望をそのままベンダに渡すだけでは、内製化にはつながりません。
要望を集めることと、要件を定義することは違います。
要望をそのまま積み上げると、システムは肥大化します。見積りは膨らみます。開発期間は延びます。運用も複雑になります。
自社主導で進めるためには、要望を次のように整理する必要があります。
- 必須要件
- できれば欲しい要件
- 今回は対象外にする要件
- 業務上の制約
- 将来的に考慮すべき要件
- 費用対効果が見えにくい要件
- 現場要望ではあるが、標準化の観点では見直すべき要件
大切なのは、要望をすべて実現することではありません。
どの要望を採用し、どの要望を見送り、どの要望を将来課題にするのかを、自社の意思として決めることです。
要件定義とは、単なるヒアリング結果の整理ではなく、自社として何を実現し、何をやらないかを決める作業です。
3. ベンダに聞く前に、自社の判断基準を決める
ベンダ提案を比較できない会社には、共通する特徴があります。
それは、提案を受ける前に、自社の判断基準が決まっていないことです。たとえば、次のような基準です。
- 初期費用を重視するのか
- 保守性を重視するのか
- 将来拡張性を重視するのか
- 標準化を重視するのか
- 業務へのフィット感を重視するのか
- 短期導入を優先するのか
- 長期的な運用安定性を優先するのか
- 特定ベンダへの依存度を下げたいのか
- 既存システムとの連携を重視するのか
この判断基準がないまま提案を受けると、比較は非常に難しくなります。
- あるベンダは価格が安い
- 別のベンダは提案が丁寧
- 別のベンダは実績が豊富
- 別のベンダはスピードが早い
- 別のベンダは技術的に先進的
どれも魅力的に見えます。
しかし、自社が何を重視するのかが決まっていなければ、最終的には「安いから」「大手だから」「詳しそうだから」「付き合いがあるから」といった曖昧な理由で決めることになります。これは、舵取りではありません。
ベンダに提案してもらう前に、自社としての判断軸を持つ。それが、自社主導の第一歩です。
ベンダに同じ前提で提案してもらうためには、RFPの設計も重要です。基本的な考え方や記載項目は、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶RFP(提案依頼書)とは?書き方・サンプル・記載項目を完全解説
4. 成果物を社内資産として残す
ベンダを使いながら内製化するうえで、非常に重要なのが成果物管理です。
開発作業をベンダに任せること自体は問題ありません。
しかし、プロジェクトの過程で作られた情報や判断の履歴が社内に残らなければ、次の改修や次の刷新のときに、またベンダに聞くしかなくなります。
社内資産として残すべきものには、次のようなものがあります。
- 業務フロー
- システム構成図
- 機能一覧
- 画面一覧
- 帳票一覧
- データ項目定義
- インターフェース一覧
- 権限設計
- 状態遷移表
- 運用ルール
- 課題管理表
- 意思決定ログ
- 変更管理の履歴
特に重要なのは、最終的な仕様だけではありません。
- なぜその仕様にしたのか
- なぜその方式を採用したのか
- なぜ別案を見送ったのか
- なぜそのベンダを選んだのか
- なぜその機能を今回は対象外にしたのか
こうした意思決定の背景を残すことです。成果物が残らないプロジェクトは、終わった瞬間から次のブラックボックス化が始まります。
逆に、成果物と意思決定ログが残っていれば、社内に知見が蓄積されます。
担当者が変わっても、次の判断に活かせます。
ベンダが変わっても、一定の引き継ぎが可能になります。
内製化とは、コードを社内で書くことだけではなく、プロジェクトを通じて舵取りに必要な情報を社内に残すことでもあります。
5. ベンダとの会議を「報告の場」ではなく「判断の場」に変える
多くのシステム開発プロジェクトでは、定例会議が行われます。
しかし、その会議が単なる進捗報告の場になっているケースは少なくありません。
- 「今週はここまで進みました」
- 「この課題が残っています」
- 「次回までに確認します」
- 「検討します」
- 「持ち帰ります」
もちろん進捗確認は必要です。
しかし、自社主導で進めるためには、会議を報告の場で終わらせてはいけません。
会議は、判断の場であるべきです。そのためには、次のような運営が必要です。
- 未決事項を明確にする
- 判断が必要な論点を事前に整理する
- ベンダには選択肢と影響を提示してもらう
- それぞれの選択肢のメリット・デメリットを確認する
- 最終判断は自社が行う
- 決定事項を記録する
- 次回までの宿題と責任者を明確にする
ベンダにすべてを決めてもらうのではありません。
ベンダから判断材料を引き出し、自社が決めるのです。
自社主導とは、すべてを自社だけで説明できる状態ではなく、必要な論点を理解し、選択肢を比較し、最後に自社で決められる状態です。
ベンダ任せから脱却するには、まず「自社で舵取りできる構想」が必要です
システムの内製化を進めるうえで重要なのは、開発作業をすべて社内で行うことではなく、業務課題、システムの全体像、優先順位、投資判断の基準を整理し、自社で舵取りできる状態をつくることです。
オーシャン・アンド・パートナーズでは、発注側の立場で業務とシステムの現状を整理し、ベンダに依存しすぎないシステム構想づくりを支援しています。「何を自社で決めるべきか」「どこをベンダに任せるべきか」を整理したい方は、お気軽にご相談ください。
ベンダを「管理する」のではなく「使いこなす」
システム開発では、「ベンダコントロール」や「ベンダ管理」という言葉がよく使われます。しかし、この言葉には少し注意が必要です。
ベンダコントロールというと、ベンダを監視する、細かく管理する、進捗を詰める、ミスを指摘する、といった意味で捉えられることがあります。
もちろん、契約、品質、納期、コストを管理することは必要です。
しかし、自社主導に本当に必要なのは、ベンダを上から管理することではなく、ベンダを使いこなすことです。
ベンダを使いこなせる会社は、相談の仕方が明確です。
- 何を相談したいのか
- 何を決めたいのか
- 何を任せたいのか
- どこまで提案してほしいのか
- どの条件で判断するのか
- どの範囲は自社で決めるのか
- どの範囲は専門家として意見がほしいのか
これが明確であれば、ベンダも力を発揮しやすくなります。一方で、ベンダを使いこなせない会社は、相談内容が曖昧です。
- 「良い感じにしてください」
- 「他社ではどうしていますか」
- 「御社のベストプラクティスでお願いします」
- 「一般的にはどうですか」
- 「全部含めて提案してください」
このような依頼が続くと、ベンダは自社なりの前提で提案を組み立てるしかありません。
その結果、発注側の意図とは違う提案になったり、過剰なスコープになったり、逆に重要な論点が抜け落ちたりします。
そして、発注側は「ベンダが分かってくれない」と感じます。
しかし実際には、自社側が舵取りの材料を十分に渡せていないことも多いのです。
良いベンダほど、発注側の意思が明確であることを求めます。
目的が明確で、判断軸があり、優先順位が整理されていれば、ベンダは専門性を発揮できます。
逆に、目的も判断軸も曖昧なままでは、どれほど優秀なベンダでも、最適な提案は難しくなります。
ベンダを正しく選ぶための観点については、こちらの記事でも詳しく整理しています。
ベンダ提案を比較できない原因は、RFPの前提整理にあります
ベンダから複数の提案を受けても、内容や見積りの前提が揃っていなければ、正しく比較することはできません。
重要なのは、ベンダを競わせることではなく、同じ判断基準の上に乗せることです。
当社では、発注側の目的・要件・判断基準を整理し、比較可能性を担保したRFP作成とベンダ選定を支援しています。
ベンダ任せの選定から、自社主導の選定へ変えたい方は、以下からご相談・ダウンロードいただけます。
自社主導型の内製化に向いている組織体制
ベンダを使いながら内製化を進める場合、情報システム部門だけに責任を負わせると失敗しやすくなります。
なぜなら、内製化は単なる技術体制の話ではないからです。
内製化とは、自社のシステムを自社で舵取りすることです。
そのためには、経営、業務部門、情報システム部門、外部ベンダがそれぞれの役割を果たす必要があります。
たとえば、次のような役割分担が考えられます。
- 経営層は、投資判断と優先順位を決める
- 業務部門は、業務課題と現場運用を整理する
- 情報システム部門は、システム方針と技術的妥当性を確認する
- ベンダは、設計、開発、専門知見、実行力を提供する
- 必要に応じて第三者支援が、論点整理、比較評価、意思決定支援を行う
ここで重要なのは、情報システム部門を単なる窓口にしないことです。
- 現場の要望を集めてベンダに渡すだけ
- ベンダから来た見積りを社内に回すだけ
- スケジュールを確認するだけ
- 障害時の連絡係になるだけ
このような状態では、情報システム部門は舵取り役ではなく、伝達役になってしまいます。
自社主導型の内製化では、情報システム部門はベンダと業務部門の間に立ち、論点を整理し、選択肢を比較し、経営判断につなげる役割を担う必要があります。
ただし、そのためには経営側の関与も不可欠です。
システム投資は、単なるIT部門の支出ではありません。
業務の変え方、競争力の作り方、人員配置、顧客対応、事業継続性にも関わる経営テーマです。
内製化を情報システム部門だけの課題にしてしまうと、結局は権限も予算も判断材料も不足し、ベンダ依存から抜け出せません。ITプロジェクトでは、唯一の正解を探すよりも、納得して決められる状態をつくることが重要です。この考え方については、こちらの記事でも解説しています。
▶ITプロジェクトに正解はない──必要なのは「納得して決められる」状態である
ベンダを使いながら内製化を進める5つのステップ

では、実際にどのように進めればよいのでしょうか。ここでは、ベンダを使いながら自社主導へ移行するためのステップを整理します。
Step 1. 現状を棚卸しする
まずは、現状を把握することから始めます。対象となるのは、システムそのものだけではありません。
- システム一覧
- 業務フロー
- ベンダ契約
- 保守範囲
- ドキュメントの有無
- システムごとの担当者
- 属人化している業務
- 改修履歴
- 障害履歴
- 課題一覧
- 年間保守費用
- 今後予定されている改修や更新
これらを棚卸しすることで、自社がどこまで把握できているのか、どこから先をベンダに頼らないと分からないのかが見えてきます。
内製化の出発点は、理想の体制を描くことではなく、まず、自社が何を分かっていて、何を分かっていないのかを明らかにすることです。
Step 2. 舵取りできていない領域を特定する
次に、自社で舵取りできていない領域を特定します。たとえば、次のような領域です。
- 費用の妥当性が分からない
- 改修の影響範囲が分からない
- ベンダ提案の良し悪しが分からない
- 優先順位が決められない
- システムの将来像がない
- 現行仕様を説明できない
- 運用ルールが担当者の頭の中にしかない
- 障害時にどこまで自社で判断できるか分からない
これらは、単なる情報不足ではありません。自社が舵取りできない原因そのものです。
すべてを一度に解消する必要はありません。まずは、どの領域で外部依存が強いのかを見極めることが重要です。
Step 3. 社内に残すべき領域を決める
次に、社内に残すべき領域を決めます。ここで重要なのは、すべてを社内に持とうとしないことです。
社内に残すべきものは、主に舵取りに関わる領域です。
- 業務要件
- 投資判断
- システム構想
- ベンダ選定
- 保守方針
- データ活用方針
- セキュリティ方針
- システム刷新の方向性
- 機能追加の優先順位
- 標準化する業務と個別対応する業務の線引き
これらは、自社の事業や業務に深く関わるため、外部に丸投げすべきではありません。
一方で、実装技術や詳細設計、インフラ構築、テスト実施などは、外部の専門性を活用してよい領域です。
大切なのは、社内に何を残し、外部に何を任せるかを意識的に決めることです。
Step 4. ベンダに任せる領域を再定義する
社内に残す領域を決めたら、次にベンダに任せる領域を再定義します。
これまでベンダに丸ごと任せていたものを、次のように分解して考えます。
- ベンダに実装を任せる
- 技術調査を依頼する
- 複数案を提示してもらう
- 設計上のリスクを洗い出してもらう
- テストを実施してもらう
- 運用保守を担ってもらう
- ただし、最終的な採否は自社で決める
このように役割を分けることで、ベンダは単なる丸投げ先ではなく、自社の舵取りを支える専門パートナーになります。
ベンダを使わないことが内製化なのではなく、ベンダの専門性を活かしながら、自社が主導権を持つことが内製化です。
Step 5. 成果物と意思決定ログを残す
最後に、プロジェクトの成果物と意思決定ログを残します。これは、次回以降の舵取りに直結します。
- なぜその仕様にしたのか
- なぜその機能を優先したのか
- なぜそのベンダを選んだのか
- なぜその方式を採用したのか
- なぜ今回は見送ったのか
- どのリスクを受け入れたのか
- どの前提条件で判断したのか
これらを残しておくことで、次のプロジェクトではゼロから考え直す必要がなくなります。
逆に、これらが残っていないと、数年後に同じ議論を繰り返すことになります。
- 「あの時、なぜこの仕様にしたのか分からない」
- 「誰が決めたのか分からない」
- 「ベンダに聞かないと分からない」
- 「担当者が退職していて分からない」
この状態こそが、外注依存の温床です。内製化とは、知見を社内に蓄積することでもあります。
ベンダ活用型内製化でよくある失敗
ベンダを使いながら内製化を進める際には、いくつかの失敗パターンがあります。
失敗1. エンジニア採用だけで内製化しようとする
内製化というと、まずエンジニア採用を考える企業があります。
もちろん、社内に技術者がいることは大きな力になります。
しかし、エンジニアを採用すれば内製化できるわけではありません。
- 業務課題が整理されていない
- 経営判断が曖昧である
- システム方針がない
- 優先順位が決まらない
- ベンダとの役割分担が不明確である
このような状態では、社内エンジニアを採用しても、何を作るべきかが定まりません。
結果として、社内エンジニアが便利屋のように扱われたり、既存ベンダとの調整役に追われたり、十分に力を発揮できない状態になります。内製化に必要なのは、人材だけではありません。その人材が舵取りに参加できる環境です。
失敗2. ベンダを減らせば内製化できると考える
ベンダ依存から抜け出そうとして、ベンダ数を減らすことだけを目的にするケースもあります。
しかし、ベンダを減らしても、舵取りの力が社内に戻るとは限りません。
むしろ、特定のベンダへの依存が強まることもあります。
重要なのは、ベンダの数ではなく、自社が何を把握し、何を決められるかです。
複数ベンダを活用していても、自社が全体を把握し、役割分担を整理し、判断基準を持っていれば、自社主導は可能です。
一方で、ベンダが1社だけでも、そのベンダがいなければ何も決められない状態であれば、依存度は高いままです。
失敗3. ドキュメント整備を後回しにする
プロジェクトが忙しくなると、ドキュメント整備は後回しにされがちです。
- 「あとでまとめる」
- 「運用しながら整える」
- 「まずはリリースを優先する」
- 「細かい資料は必要になったら作る」
こうして、結局残らないままプロジェクトが終わります。
しかし、ドキュメントが残らないプロジェクトは、将来の自社主導を妨げます。
特に、業務フロー、システム構成、データ定義、インターフェース、運用ルール、意思決定ログは重要です。
完璧なドキュメントを最初から作る必要はありません。しかし、最低限、次の担当者や別のベンダが見ても全体像を理解できる状態にはしておくべきです。
失敗4. 情シスだけに責任を負わせる
内製化を情報システム部門だけの課題にしてしまうことも、よくある失敗です。
システムは業務と経営に直結しています。にもかかわらず、業務部門は要望を出すだけ、経営層は費用承認だけ、情報システム部門はベンダ調整だけ、という状態では、自社主導にはなりません。
自社で舵取りするためには、経営層、業務部門、情報システム部門がそれぞれ責任を持つ必要があります。
- 経営層は、投資判断と優先順位を決める
- 業務部門は、現場の課題と運用の実態を整理する
- 情報システム部門は、システム全体の整合性と技術的妥当性を確認する
この役割分担があって初めて、ベンダを使いながら自社主導で進めることができます。
失敗5. ベンダを敵のように扱う
外注依存から抜け出そうとするあまり、ベンダを敵のように扱ってしまうケースもあります。
しかし、これは望ましい方向ではありません。ベンダは排除すべき存在ではなく、むしろ、自社だけでは不足する専門性や実行力を補ってくれる重要なパートナーです。
問題は、ベンダがいることではありません。ベンダに舵を渡してしまうことです。
良いベンダを活かすためにも、自社側が目的、判断基準、優先順位を明確にする必要があります。
発注側が舵を取り、ベンダが専門性を発揮する。この関係がつくれれば、ベンダを使いながら内製化を進めることは十分に可能です。
内製化とは、ベンダを使わないことではなく、ベンダに舵を渡さないことである
内製化という言葉は、しばしば誤解されます。
- 開発を自社で行うこと
- エンジニアを採用すること
- 外注をやめること
- ベンダを減らすこと
しかし、それだけでは本質的な内製化にはなりません。本当に重要なのは、自社のシステムについて、自社で考え、決め、進められる状態をつくることです。
ベンダを使っていても、自社が舵を握っていれば、自社主導です。社内にエンジニアがいても、方向性を外部に委ねていれば、それは自社主導とは言えません。
外注依存から抜け出すために必要なのは、すべてを自社で抱えることではありません。
- 作業は外に出してもよい
- 専門性は外部から借りてもよい
- 開発や保守をベンダに任せてもよい
しかし、舵取りまで外に出してはいけません。
- どこへ向かうのか
- 何を優先するのか
- どこまで投資するのか
- 何を残し、何を変えるのか
- どの提案を採用し、どの提案を見送るのか
これらを自社で決められる状態をつくることが、内製化の本質です。ベンダを使うことは問題ではありません。問題は、ベンダがいなければ舵取りできない会社になってしまうことです。
内製化とは、開発会社になることではありません。
自社のシステムを、自社で考え、決め、進められる会社になることです。そして、その状態をつくることこそが、ベンダを使いながら内製化するという実務の本質です。
ベンダを使いながら、自社で舵取りできる体制をつくりませんか
内製化とは、ベンダを使わないことではありません。自社のシステムについて、自社で考え、決め、進められる状態をつくることです。
当社では、システム構想策定、RFP作成、ベンダ選定、プロジェクト推進の支援を通じて、発注側が自社主導でシステムを進められる状態づくりを支援しています。
「ベンダに任せきりになっている」「提案の妥当性を判断できない」「内製化を進めたいが何から始めればよいか分からない」といった課題があれば、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人について

-
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。






















