現場が求める便利さと経営が求める生産性向上は似て非なる話

2019/03/15

現場がシステムに「利便性」を求める理由

基幹システムの再構築プロジェクトでは、現場をいかにうまく巻き込むか、がプロジェクトの成否を左右します。
なぜなら業務は現場で動いているからです。彼らの協力が無いとシステムは動かないといっても過言ではないでしょう。

それではと現場に意見を求めると、それはそれで話しが進みません。
現場のニーズは徹底的に現状肯定、つまり現行業務をできるだけ変えずに、操作性や応答時間を向上して欲しいということに尽きてしまうのです。

一体なぜこうなってしまうのか。

それは現場ユーザは現行業務については良く知っているが、改善後の業務についてはイメージできないからです。
当然のことながら視覚や経験を通じていないことは想像がつきません。
「本当にどうしたいか」と聞けば「今までどおりにしてほしい」としか言いようがないのです。
それに加えて既存システムは伝票毎の入力画面があり、それぞれの業務部門の専用画面を利用すれば良いので誰でも簡単に使えるという余人を以て代えがたい利点があります。

この理由から「便利さ」に関しては細かい要望が沢山出ます。
項目を選んだら、自動で入るようにして欲しいとか、伝票ごとに入力画面を分けて、それぞれの帳票を個々に出して欲しい、誰でも簡単に入力できるようにして欲しい、といった具合です。

このような細かいことをシステムに盛り込んでいくと、システムは新しくなったものの、仕事の仕方は今までと変わらないという本末転倒なことになってしまいます。

経営と現場とのギャップ

現場の期待は「便利さ」である一方、経営がシステムに期待するのは「組織全体で生産性が上がる」ことです。

しかし個々の「便利」が積み重なった先に「生産性アップ」があればお互いハッピーですが、実は必ずしもそうなりません。
このギャップが業務改革を阻み、プロジェクトを難航させます。

この状況から逃れるにはどうすれば良いでしょうか。

個々の便利さと大きな成果は両立しないことを「知る」

現場の人たちが、システムが刷新されるなら、それが自分たちに「便利」さをもたらすべきと考えるのは当然の欲求です。
しかし個々の便利さの総和は、良くてプチ改善、悪い場合は全体の効率を落としかねません。
大きな成果を得るには「便利さ」を犠牲にしないと、そこに辿り着けないのです。

大きな成果について語られる際「馬車をいくら連続的に変えても、それによって決して鉄道を得ることはできないであろう」という言葉があります。
小さな改良、改善をどれほど加えても質的な変化は起こりませんが、大きな成果とは、馬車が鉄道になるような【質的に不連続な変化】が必要ということです。

大きな成果とは「従来の延長線上にはない、非連続的な世界を創り出す」「ゲームのルールを根本的に覆し、新しい価値を創り出す」といったチャレンジの先にあります。
つまり「非線形」「非連続」というキーワードが重要であるように、「便利さ」を超越したところに新しい道が生まれるのです。
私たちの身の回りにも、便利さに目をつぶってでも、それが欲しいというケースがいくつもあります。

例えば移動手段として飛行機は、電車や車で移動するのと比べて飛躍的に移動時間が短縮されます。
さてどちらが便利かと言えばどうでしょう。

電車の場合は好きな時間に駅に行って、ホームに来た車両に乗れば、目的地まで運んでくれます。
一方で飛行機はまず予約が必要です。そしてターミナルまでわざわざ足を運び、出発の30分前には保安検査場で人体と手荷物チェックを受けさせられて、さらに搭乗口まで歩かされます。電車と比べて決して便利ではありません。それでも便利さに目をつぶって圧倒的な移動時間の短縮効果を選ぶ人は後を絶ちません。

このように便利さと、大きな成果との相関関係は、似て非なるものなのです。この考え方を知っておくことで業務改革が少しでもスムーズに進むようにと思います。

 

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。