そろそろ正規雇用とかに拘るのはやめませんか、という話し

2020/04/03

ITエンジニアの平均勤続年数は一般的に4〜5年と言われています。

ちなみに私自身は創業前に5回の転職経験があります。
その中で、周りにいた仲間たちが他所に移っていくのを様々に見てきた肌感覚として4〜5年という数字は
「まぁ、そんなところかもしれないな」と思えます。

しかし一般論として、実際どうなのでしょうか?
それを客観的に探るため、有名どころをちょっと調べてみました。

統計に目ぼしいのがなく、EDINETというサイトからディスクロージャーデータを探してみて結果がこれです。

・ヤフー(Zホールディングス株式会社) 6.8年
・ディー・エヌ・エー          3.8年
・ZOZO 5.4年
・楽天 4.6年
・ミクシィ 3.3年
・グリー 4.4年
・サイバーエージェント 5.4年
・マーベラス 6.4年
・スクウェア・エニックス 5.1年

(金融庁「EDINET」より)

こちらは推定値とほぼ合致。

次にニューエコノミーだけではなく重厚長大なセグメントも見てみました。

・NTTデータ 14.6年
・日立製作所 19.0年
・富士通 19.2年
・日本電気 19年
・東芝 19.8年
・日本電信電話 16.8年

(金融庁「EDINET」より)

さすが日の丸を背負っている誇りは素晴らしいですね!
一度入ったら最後まで勤め上げる覚悟が、これらの数字から伝わってきます。

さておき超大手企業に在籍する人は、エンジニア人口のわずか一握りと考えると、大勢がニューエコノミーやミドル&スモールのセグメントに居るわけです。そして上場企業でさえ3〜7年の辺りに勤続年数が収束しているのではあれば、やはりエンジニアは一つの場所にそう長くは留まらない人たちと見て間違いなさそうです。

このようにエンジニアには数年ごとに企業から企業へ飛び渡る「渡り鳥」のような性質があります。
ちなみに欧米では、特定の企業に属さずに、プロジェクトからプロジェクトへ渡り歩いて生計を立てるエンジニアもいると聞きます。
今回はこのような性質を踏まえて、企業とエンジニアのお互いもっとも幸せな関係のあり方について考察してみます。

雇い入れた人がずっとその企業に勤続してくれるという幻想

企業が人材について語るとき、その多くは雇ったスタッフが永く勤続することを前提とします。
一般的に人材育成は、末永く企業に貢献することに向けての教育投資がなされます。その対象はパートでもアルバイトでもなければ契約社員でもありません。つまり正規雇用して雇い入れた社員がその対象となります。

しかし前述のとおり社員は4〜5年もすれば別の会社に渡り移っていきます。これはマネジメント層にとっては悩ましいことです。かといって数年単位で社員が入れ替わることを前提とした教育訓練を行うことはないでしょう。なぜなら人材が辞めないようなマネジメントが重要だからです。

企業に課せられた社会的使命のひとつとして「持続可能性」があります。
その筋の専門家の間で”サステナビリティ”で呼ばれている「あれ」です。
満たす要件のひとつとして「人材の持続性」が不可欠です。人が入れ替わることを前提に完全マニュアル化された組織はさておき、人に仕事が帰属する傾向がある日本企業では、しょっちゅう人が入れ替わっていたら仕事が成り立ちません。

つまり一度雇入れた人が、ずっとその企業に居るという前提を無理やり立てて、教育するなり事業を計画せざるを得ないのが実態なのです。その一方で社員の退職リスクと四六時中向き合うという綱渡り的な側面もあります。

持続可能性は「正規雇用」以外の道筋にあった

さて、当社(オーシャン)のことをお話しします。
それはもう13年前のことですが、私がIT業界を渡り歩く中で知り合った仲間たちとの出会いがきっかけになります。
その仲間たちはすでに企業をスピンアウトし、個人事業主として腕を振るっている面々でした。

そんな一騎当千のメンバーを一人一人集めて、チームを作ったのが当社の始まりです。

ちなみに当社のメンバーは、正社員ではなく個人事業主として参画しています。で、実際にやってみて実感していることの一つとして「退職する」とか「転職する」という概念とは無縁ということが分かってきました。すでに企業を「退職」している以上、この先「辞める」とか「移る」ことが無いのです。

皮肉なことに、私の場合は家族よりもメンバーと知り合ってからの年月のほうが遥かに長いです。
(一緒に過ごしている時間ではないので念のため)

お互い健康で生きている限り続く関係。意外にもこのような一見「疎」に見える関係が、実は持続的と言えるでしょう。
つまり正社員として正規雇用しているから(非正規雇用よりも)安心な未来があるというのは幻想にしかすぎません。
単に正規雇用なのかアルバイトなのか、あるいは業務委託なのかという契約の仕方が違うだけです。

なお当社に新たに参画するメンバーは、正社員として働くか、個人事業主とて働くか選択できるようになっています。殆どのメンバーは個人事業主として働くことを選びます。すでに企業からスピンアウトしているので「今さら社員に・・・」という気持ちもあるのでしょう。雇用に安定安全をもたらす正社員という制度は窮屈な檻にすぎないのかも知れません。ちなみに正社員を希望したのは今まで2人だけ。そんな会社が創業してもう13年になりメンバーもしっかり固まっています。

追記(2020.4.7)

本コラムをアップした数日後、興味深い記事を見つけましたのでご紹介します。
タニタという「健康をはかる」計測機器の開発・販売会社の取り組みです。
「ずっと働いてほしいから退社して!」と、正社員にあえて退社してもらい、業務委託契約を結び直す大胆な施策を打ち出しています。会社と働く側の新たな関係性を探る取り組みと言えるでしょう。

日本経済新聞 2020年4月7日より

 

どうすれば社員のやる気を刺激できるのか?
谷田千里社長は常識外れの戦略に出た。
「終身雇用と年功序列に守られているから『やらされ感』が蔓延する。正社員を辞めてもらえばよい」。
結果さえ出せば働き方は自分次第。

(同じく日経新聞より引用)

サイボウズさんからもタニタさんの制度について取材記事を出されています。こちらも興味深い

 

自由な働き方は「正規雇用」とか「非正規雇用」という眼鏡を外すところから始まる

2020年4月1日から同一労働性賃金が始まりますが(注:中小企業は2021年4月から)、考え方の根っ子には「正規雇用」と「非正規雇用」を対極的に捉えるところがあります。正社員は非正社員のほうが有利であるという考え方を土台にしています。

一方、企業の経営者とすれば、正社員と非正社員の差を付けるつもりはなくても、やはり「正社員」という存在への期待が高いがゆえに、結果として待遇に現れてしまうのでしょう。

このような状況に対する私の意見は、行政は「正規雇用」とか「非正規雇用」と言うのを止めたら、ということです。「非正規」の領域に属する人から見れば、自分たちが選んだ生き方に不本意なレッテルを貼られたくない、というのは少なからずあるでしょう。また「正規雇用」が目指すべき道筋という論調を生み出すのもよろしくはありません。

また企業の経営者は「正社員」という幻想から早々に抜け出して、「非正社員」が活躍できる環境づくりに、もっと力を注ぐべきでしょう。

そろそろ正規雇用とかに拘るのはやめませんか。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。