経営者でも理解できるクラウドのメリットについて

2019/11/26

先日、政府が全省庁のシステムをクラウドへ移行する方針を示しました。2020年秋から基幹業務システムやデータベースを順次クラウドに切り替えていくそうです。国民のデータを海外に預ける是非を考えるとおそらく国内が中心になるでしょう。

さて、ほんの数年前までは「クラウドは自社管理ではないから安全ではない」という論調もあり、クラウドに対して慎重な姿勢を取るユーザー企業が少なくありませんでした。しかし2018年頃からメガバンクがクラウドに舵取りを始めて金融分野においてもクラウド利用が急加速しています。

ちなみに日銀が発表している金融機関におけるクラウド導入状況がこちらです。
金融はIT需要のビッグスポンサーであり、かつ要求条件が厳しい分野です。このセグメントで拡がっていることは、国内のクラウド利用に号砲が鳴らされたといって過言ではないでしょう。

(出典)日本銀行「ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ(第3期)

 

上記データの出典元である日本銀行の分析によれば、クラウド利用に関する以下の懸念解消が示されています。

・データの所在が不明
⇒ リージョンの指定が可能。
• 可用性が要求水準に不足
⇒ 国内に複数リージョン(東西)の設定。
• セキュリティ面での不安
⇒ 安全対策基準への適合状況を回答、金融機関向け特別契約で対応、標準/NDA資料の個別開示、監査レポートの提供、外部認証(ISOの取得。
• 社会的に受容されるか不安
⇒ 他行を含めた導入実績、成功事例の蓄積。

さて今後レガシーシステムを刷新、あるいは基幹システムを構築される企業であれば、クラウド利用のメリットをしっかり理解しておく必要があります。「良く分からないから」「自社で管理しないと不安だから」といって目を伏せていれば、ライバル企業から周回遅れになってしまうからです。

ただ私が知る限り、クラウドについて経営者目線で分かりやすく書かれた書籍や記事はなかなか見当たりません。そこで分かりやすさを意識してメリットについて書いてみました。

経理/財務面のメリット

1.固定費が限りなくゼロに近くなる

年商100億円の企業がサーバーを自社調達するとしましょう。仮にITベンダーがサーバー本体費用を5,000万と見積ってリースを提案してきたとします。その場合、月額が約94万円(リース料率1.87%の想定で計算)となり、この費用が5年間固定でかかります。さらに5年後の更新時にサーバーを切り替えるとすると、そのための作業費もかかります。
対してクラウドの場合は単純計算しても上記コストの20~60%程度で済み、しかも変動費です。5年毎の切換え作業費も不要です。

2.財務諸表がスリムになる

今までサーバーを資産として計上していた場合、クラウドにするとバランスシートから切り離すことができます。
その結果、純資産利益率(ROA)を改善できるため、金融機関や投資家など外部評価が上がる可能性が生まれて借入コストの削減にも繋がります。ROAの数値が高いほど、資産を効率よく活用していると考えられるため、企業の評価は高くなるからです。

3.物理的なスペースが不要

自社サーバーを置いておくためのスペースや電源や空調設備が不要になります。空いたスペースや浮いたコストを節約したり他の用途に廻せます。また無駄な増床やコストが不要ですので経営資源の有効活用につながります。

4.人件費を再配分できる

自社サーバを「御守りする」という作業が無くなります。システム担当者の年間タスクのうちの50%を自社サーバ-の管理に割かれていたとすれば、その担当者の年間人件費の50%を他業務に割り当てることができるということです。埋没コストは意識されないことが多いのですが、金額に換算すれば恩恵が理解できると思います。

利用上のメリット

1.柔軟性を維持できる

クラウドの大きな特徴のひとつとして「必要なときに必要な分だけ使える」というのがあります。水道の蛇口に例えれば、大きくひねれば大量の水を汲め、不要なときは閉じておける、という具合です。この特徴を活かして、事業の繁忙期にはコンピューターのリソースを沢山使って、閑散期は小さく使って、その間はコストを節約することも可能です。

自社サーバ-の場合は、繁忙期のピーク量に合わせたリソースを予め買っておく必要がありますので、処理量に応じて増やしたり減らしたりという調整はできません。つまり固定費が高いほうに固定されてしまいます。それがクラウドなら使った分だけ払うということになり、それが変動費になり、しかも安く済みます。

2.低コストで障害対策ができる

自社で構築する場合、バックアップ用のリソースを確保したり、複数のサーバーを置いて障害に強くするためには、そのためのリソースを予めて買っておく必要があります。物理的な筐体を買うわけですから、「XXX機器 一式につき〇〇円」という具合にひとつひとつ見積りを取って、その総額を支払う必要があります。その〇〇円というのは決して安い金額ではなく、さらに総額となると高いほうに飛び抜けます。クラウドの場合、非常用のリソースを確保しておくのは同じですが、買い取りと比べると、コストは非常に低額です。

3.災害対策に強い

クラウド事業者ではデータセンターを北海道、関東、関西というふうにエリアを分散して設置する傾向があります。これはもし、自然災害やテロなどによって関東が被災しても北海道は大丈夫、というふうに環境を分けてサービスを維持するという考え方に基づきます。さらに海外のクラウド事業者では国を跨いで分散するところもあります。

これによって例えばこんなことも可能です。日本とアメリカのそれぞれにデータベースを置いて、日本のデータベースに情報を書き込むと同時にアメリカに置いてあるデータベースにも書き込むこともできるのです。極端な話し、日本のデータベースが被災しても(そもそも被災しないように充分対策されていますので、壊れるのは隕石やミサイルが飛んできたときくらいかも知れません)アメリカのデータベースで業務を継続できるのです。これと同じようなことを自社サーバでやろうとすれば、とんでもないコストがかかりますが、クラウドであればちょっとした+αのコストでできてしまいます。

4.陳腐化に強い

システムは業務環境の変化や技術変化によって必ず陳腐化するものです。自社、他社、ライバル企業の全員が足並みを揃えて現状維持なら問題はありません。しかし技術変化が早い時代は、現状維持に留まっていると、新技術を採用した企業との差がみるみるうちに拡がってしまいます。いまや「陳腐化」は企業経営の最大のリスクと言えるでしょう。

クラウドの場合は、サーバー側の技術はクラウド事業者のほうで更新し続けるため、陳腐化に強い特徴があります。これを自社で更新する場合は、サーバーの交換費や作業費、それに対応する人件費が高くつきますが、クラウドであれば毎月払っている利用料金以外払う必要がなく、向こう側で最新の環境を維持してくれます。

セキュリティ上のメリット

1.そもそも専門事業者のほうがセキュリティのノウハウもスキルもある

自社管理よりクラウドを選択する方がセキュリティの強化につながるケースが相当数見られます。クラウド事業者の管理体制やセキュリティは専業であるがゆえに堅牢さが一定以上担保されているからです。専業であるがゆえに相当の投資を行いノウハウも蓄積されており、さらに第三者機関の外部認証もしっかり合格させておくという徹底ぶりです。

これは大量の現金をタンス預金しておくか、金融機関の金庫に預けておくのかの、どちらがより安全か、の比喩でも良く用いられます。餅は餅屋で専門業者に任せておいておくほうが安全で得策です。

2.侵入リスク対策

実際のサーバーが保管されている物理的な場所は非公開(地域だけ指定可能)のため、それがそのまま侵入リスク対策になります。

3.最後はやはりコスト

クラウド事業者と同等の管理体制やセキュリティ基準、耐火耐震性、侵入対策を自社で揃えるのは、相当コストが高くつきます。クラウドの場合は毎月の利用料金にセキュリティ対策も含まれていますので、そのためだけの追加コストがかかりません。

まとめ

いかがでしたしょうか。

時代が進むにつれて、社内も取引先も業務環境がどんどん複雑になっていますから、今ほどシステム化が効く時代はないと思います。うまくクラウドという仕組みを使いこなして、コストを下げつつ柔軟性を確保するというように、テコを効かした経営が必須です。

さらにクラウドがもらたした技術革新のひとつとして「仮想化技術」というものがあります。これによってサーバーの物理構成と論理構成を切り離すことができ、アプリケーション側には影響なくダイナミックに物理構成を変更できるようになりました。またサーバーがクラウドにあるのか、自社にあるのか、使う側は全く意識する必要はありません。このような技術を使いこなせば経営の武器になります。

これからはますますシステム化をうまくやった組織とうまくやれなかった組織の創造力や効率がごまかしきれないほどに大きくなってくることでしょう。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。