システム会社から適切なコミットを引き出す心得について

2019/05/07

システム開発会社の選定で当たり前のように行われる相見積もりやコンペ、また仕事で気を抜かれないための牽制の数々。
果たしてこれらはお互いに良い関係を続けるために適切な行為と言えるでしょうか?

というのも、コンピュータを始めとしたシステム調達は企業の投資項目の中でも高額な側に飛び抜けますし、システム開発会社との付き合いも一般的に長期に及ぶからです。したがって結婚相手を選ぶくらい慎重に確かめ、また誠意を図るべきでしょう。

今回は決裁権のある方に向けて、システム開発会社と付き合うときに勘違いしがちなこと、また大切な考え方を紹介していきます。

 

1.数年先の自社の状況を思い浮かべる

お付き合いするシステム開発会社の企業規模はどれくらいが適切でしょうか。

小さな会社に大きな仕事を任せるのは不安でしょうし、かと言って、自社に釣り合わないほどの大きなシステム開発会社を選んでも、相手からこちらを重要な取引相手と感じて貰うのは難しいものです。さらに、その時のことだけではなく自社の数年先の状況がどのようになるかを想像しなくてはなりません。

例えば相手が小さなシステム開発会社なら、自社が成長した時に対応することができるでしょうか?
また優良なシステム開発会社が見つかったとしても、自社が相手と同じペースで成長しなければ実際には長続きしないでしょう。

反対に大きなシステム開発会社を選ぶが、自社の規模を拡大するつもりがない場合、相手の興味をつなぎとめておくことができるでしょうか?
そういったことが現実の問題として重要なのです。

数年経っても、自社のビジネスに対応できるような十分な人材、優秀なメンバーをアサインしてくれるかどうかは、かなり重要な指標ですが、先のことを尋ねても相手は答えようがありません。しかし自社の将来の状況であれば、想像がつくことでしょう。

 

2.安い買い物は、結果として高くつく

複数のシステム開発会社から相見積もりを取り、どちらがより安い料金を提示するかを見る場合では、最適なシステム開発会社が料金の安さを理由に負ける可能性があります。そのため実際に採用したシステム開発会社は最も良い候補ではないかも知れません。

採用されたシステム開発会社は顧客が気付かないよう提供物を減らしたり、料金を水増ししたり、あれこれ手を使って損失を補おうとするかも知れません。人材開発投資の元に成り立つシステム開発というサービスは、原価の大半が人件費で構成されており、安さを購買理由にすることにはどうしても危険が付きまといます。つまり目論んだ費用の節約は絵に描いた餅に終わることでしょう。

システム開発会社を判定する側が、相手の仕事振りを本当に想定できてるかはそもそも疑わしいものなのです。重要なのはコストではなく結果、つまり効果がなければどれほど費用を節約できても喜ぶことなどできないでしょう。そして効果があるのなら多少費用が増えても気にならないはずです。安い買い物は結果として高価な対価を支払うことになるのです。

 

3.採用するかどうか決まっていない段階で、何かを依頼する場合は、対価を支払う

無償でやって貰う仕事に価値などありません。
そんな仕事の結果で、システム開発会社の実力や取り組み方を評価しようとするのはリスクが高すぎます。

採用するかどうか決まっていない段階で、多少なりとも労力を必要とする調査や提案をお願いする場合には、システム開発会社に対価を支払うべきです。これはシステム開発会社の事情に立てば分かることですが、既存顧客からは仕事の対価を受け取っているのに、見込客には無料奉仕するとなると、既存顧客からの報酬でその仕事の経費を賄うことになります。

通常システム開発会社が無料で仕事をするのは手が余っている時と、既存顧客から頼まれた時だけです。ただし現実的に言えば、利益が約束されてる大型案件や、大きな可能性を秘めている契約を目前にすると考えが揺らいでしまうことでしょう。しかし結局のところは顧客が何らかの形で支払うことになるのです。

 

4.相手と密接な関係をつくる

サービスを買う側と売る側との関係が長く続くときは、人間的なつながりを築くために、取引相手との雑談が重要になってきます。
雑談はお互いをより深く理解し合うための潤滑油です。
ときにはわざわざインフォーマルな機会を作って、気持ちをお互いに向けることもあるくらいです。

またお互いの関係を発注側と受注側というふうに、つまり相手を業者と見なしてしまうと、先方から何かして貰ったときに(例えば書類を送って貰ったなど何がしか連絡が届いたとき)、それを当前に感じて返事を怠りがちになるものです。このようなときに即座にフィードバックを送ると、お互いに生身の人間通しの付き合いであることを、あなたが重要に感じているというメッセージになります。

お互いあくまでも対等な立場であること、またそれ以上に相手を尊重しているというスタンスを持って(そのためには尊重にするに値する相手であることも重要ですが)、その姿勢が相手に充分に伝わるように気を配るべきです。

 

5.常に上層部の人々に自分の事業に興味を持ってもらう

よく聞かれる不満は、システム開発会社の選定時は相手は可能な限り最高のチームを出してくるのに、必ずしもそのチームが契約後に仕事をしてくれるとは限らないということです。

初めから実際に仕事を手がけることになるチームと話をしたいのはもっともな希望です。しかしシステム開発会社には最終的に誰が担当になるかまだ分かりません。見込客の事業について熟知してませんし、契約が決まっているわけでもないからです。つまり取れるかどうか分からない契約のために人材を確保しておくことなどあり得ない、と思うのが賢明なのです。

新たな問題を抱えた見込客が現れた時、システム開発会社にできる最善のことは最も優秀なメンバーをアサインすることです。それと同様に見込客の状況を把握したら、担当を他のメンバーに替えるのも極めて筋の通ったことです。経営的視点で言えば、最高のメンバーが常に同じ会社を担当していたら、そのシステム開発会社が破綻してしまいます。
とは言っても顧客の心情としては、最高のメンバーを自社のために維持して欲しいことでしょう。これは当然のことです。

そこで心がけておくべきなのは常に上層部の人々に自分の事業に興味を持ってもらうことです。システム開発会社の上層部も、常日頃から顧客の事業を成功させてさせたいと思っているものです。

あなたが決裁権限をお持ちの立場でしたら、その上層部とのコンタクトを温めておくことが重要になります。もちろん、あなたが相手から接待を受けるスタンスでは長続きは期待できないでしょう。逆にあなたが相手にアピールする番ですが、熱がこもるあまり鼻につくような話しにならないようにするのが賢明です。

 

6.システム開発会社の提案の質は、相手に渡す情報の質に左右される

システム開発会社による提案の質は、実は顧客が相手に渡す情報の質に左右されると言っても過言ではありません。

顧客が達成したいと思っていることについて、それをどのように進めようと思っているかについて詳細な情報をシステム開発会社に渡しておかなければ期待通りの提案は決して望めません。顧客が何をしようとしているか、どのような事業を展開しているか、どのような問題や機会に直面しているかシステム開発会社には充分な情報がないからです。

システム開発会社は、顧客のスタッフに会ったり、顧客の事業を熟知している人物に会ったり、顧客の先にいるユーザーに会って購買理由を聞いてみたいと思っていても、そのための時間もあまり取れません。

つまり顧客が提供する情報はどんなに小さくても価値があるのです。しかし残念ながら提案を「システム開発会社が自分たちの望みを察することができるかどうかを見定める機会」だと思っている人もいます。ちょっとした気晴らしの時間になるのかも知れませんが、しかしそれは時間の無駄としか言いようがありません。

ということで同等の立場で議論した方がもっと成果があるでしょう。具体的な問題を提示してもらわなければ取り組むべきことは何もないからです。顧客とシステム開発会社が初めて会うとき話題は、顧客が抱える特定のニーズを中心にすべきです。そうすればどちらの側も満足する可能性は高くなります。顧客にはシステム開発会社が問題にどのように取り組むかが分かりますし、システム開発会社は自らの腕前を見せることができ、意味のない話は最小限に抑えられます。

 

7.一度決めた以上、その分野の仕事は一つのシステム開発会社に任せるのが賢明

仕事はほぼ一つのシステム開発会社に任せるのが賢明です。さもなければ仕事に一貫性がなくなり、熱心な人と継続的な関係を築くことができません。そしておそらく仕事の質が悪くなることでしょう。顧客が多くのシステム開発会社と絶えずやり取りしながら自らのポジションを保つことなどできないのではないでしょうか。

システム開発会社からしてみれば、もし顧客が絶えず他のシステム開発会社からプレゼンを受けていたら落ち着かない気持ちになるでしょう。そのような状態で最高の仕事ができるかどうか疑わしいものです。しかし残念なことに、替えるつもりなどないのに、他のシステム開発会社にプレゼンをお願いしたりして、システム開発会社をさりげなく脅迫し続けるのが賢いやり方と考えている顧客もいます。そうすればシステム開発会社が気を抜かないと信じているからです。しかしそれは違うと断言できます。

そのようなことをすればシステム開発会社に嫌われるだけです。実はここに結婚の例えが当てはまります。誠実にしてくれない相手のためになぜ心を込めて仕事をしなくてはならないでしょう。さらに重要なのは抱えている問題の一部しか知らされていない状態でどうやって業務の複雑さを理解するというのでしょうか。また前段で述べた「常に上層部の人々に自分の事業に興味を持ってもらう」の目的に相反する行為にもなります。上層部にコミットして貰うには、一貫性のある態度が必要です。

なお顧客が一つのシステム開発会社に限定するべきであると同じように、システム開発会社も顧客を替えるつもりがない限り既存顧客と競合する企業と話をするべきではないと言えます。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。