「仕事のあり方が変わる時:企業がテクノロジーで得た成果」

2024/10/28

企業の成長にとって、ITの役割は今や欠かせない要素となっています。
しかし、多くの企業では、ITが現場の「便利ツール」としてしか捉えられていないのが現状です。
これにより、テクノロジーの持つ本来の力が十分に活かされず、必要な変革が進まないまま、競争力を失ってしまうケースも見られます。
そこで今回は、テクノロジーの本質を理解し、それを戦略的に活用することで企業の競争力を高めた事例を紹介します。
テクノロジーが仕事の進め方や質を変える力を持ち、企業をどう変革できるのかを当社が実際に手掛けたプロジェクトのケースから掘り下げていきます。

リアルタイムに連携が加わるとさらに価値が高まる

ある生活情報を提供する企業では、複数ジャンルのサービスを運営しており、同じお客様がどのサービスを利用しているかを把握できれば、マーケティングの効果を高められると考えました。

小売店グループの本部が店頭で商品が売られた瞬間に、商品が売れているという情報をリアルタイムで把握できることに、大きな意味があると考える小売関係者は多いでしょう。

この「リアルタイム」に「連携」が加わるとさらに価値が高まると考えたのです。
当時は、グループ内の異なる業態の店舗間で顧客情報がバラバラに管理されており、顧客に対するプロモーションが十分に機能していませんでした。例えば、各店舗間での購入履歴が連携しておらず、全体としての顧客理解が深まらない状態だったのです。

そこで全てのサービスで顧客を統一的に認識し、過去の購入履歴や問い合わせ内容を基に、自動でタイムリーかつ個別に最適化された提案ができる仕組みを導入しました。例えば、引っ越しや結婚などのライフイベントに合わせた最適なサービス提案が可能になりました。これにより、リピート率と顧客単価が向上したのです。

このような取り組みは、人手だけでは決して達成できません。
仕事の質を根本から変えるようなテクノロジーの力が加わって、初めて実現できるものです。

地理的な壁を超えてオンライン募金システムで資金調達を革新

NPO団体のファンドレイジングの仕組みを提供する企業の例では、テクノロジーによって資金調達や組織運営のあり方を変えました。

具体的にはオンライン募金システムの導入により、リアルタイムでの分析が可能になったことで、単に寄付金を受け取るだけでなく、寄付者の行動履歴や興味、支援活動の内容に基づいたキャンペーンやイベントを展開できるようになりました。
例えば、特定のプロジェクトや社会問題に強い関心を持つ層にターゲティングした募金キャンペーンを瞬時に立ち上げることができ、反応率や寄付額の向上が実現しています。
このようなデータに元づくアプローチにより、寄付者はより深くNPO活動に共感し、リピート支援の促進につながっています。

さらに、オンラインプラットフォームを通じて、地理的・時間的な制約が完全に取り払われたことで、地域限定の活動では得られなかった全国的な支援が可能になりました。例えば、オンラインイベントやバーチャル会議を活用することで、遠隔地の支援者ともリアルタイムでつながり、寄付者とのエンゲージメントを高めています。

これらのテクノロジーの導入は、単なる効率化やコスト削減に留まらず、NPOの事業モデルそのものを変革し、新しい資金調達の可能性を生み出す重要な柱となっています。
もはやデジタル技術は、組織の未来を描き、持続可能な社会貢献活動を強力に後押しする原動力なのです。

在庫管理の仕組みを追求して、仕事のレベルを別次元に持っていく

ある足場資材のレンタル事業を営む企業では、在庫管理の仕組みを徹底的に検討して、預けた資材が今どこにどういう状態であるかまで
分かる仕組みに変えたことで競争力を高めています。

たとえば、ある拠点で在庫が不足している場合でも、他の拠点の在庫をシステムで即座に確認し、移送を手配することが可能です。
これにより、在庫不足による販売機会の喪失や、過剰在庫によるコスト増加を防ぐことができました。
さらに、原価管理の精度も向上し、拠点ごとの利益率を正確に把握できるようになったため、より精緻なコストコントロールが実現しました。

可視化を加え、取引先との連携をさらに効果的に

金融機関向けの教育サービスを提供する企業のケースです。
まずサービスの利便性のために顧客ごとにカスタマイズされたページをインターネット上で提供し始めました。これにより顧客は自分で購入履歴を確認したり、注文の進捗状況を追跡できるようになり、問い合わせ件数が大幅に減少、結果としてカスタマーサポートの負担が軽くなり、その分のリソースを他の業務に回せるようになりました。
また顧客に合わせたオファーやおすすめ商品を表示する機能も追加され、より個別化されたサービスを提供できるようになりました。

さらに、この企業の賢い戦略は、個人向けだけでなく、企業の教育部門などの主要顧客にもデータを提供している点です。
単に情報を見せるだけでなく、必要なデータを見やすく整理して開示することで、取引先が自社での活用状況を把握しやすくしています。
これにより、例えば金融機関などの重要な取引先は、教育の機会損失を最小限に抑えることができるようになります。

また情報を共有することで、取引先の知恵を自社の知恵として活用できる仕組みも構築しています。
これにより150人の自社社員だけでは思いつかないような幅広いアイデアや施策を実行できるようになりました。

さらに、教材や書籍の発送プロセスにおいては、外部の運送会社ともデータを共有し、注文が入ると同時に在庫確認、出荷指示、配送手配が自動で行われる仕組みを実現しました。これにより、人手による確認作業やミスがほぼなくなり、時間のかかる工程が大幅に短縮されました。その結果、顧客満足度が向上し、リピート率が増加しています。

取引先も巻き込むデジタル戦略:効率化とデータ分析の強みを生かす

不動産購入者に保証証書を発行する企業では、近年のデジタル化の流れに対応し、保証証書の電子交付サービスを提供しています。
このサービスによって、不動産会社の業務効率が向上し、購入者にとっても利便性が高まりました。
ペーパーレス化も実現し、購入者は24時間365日、オンラインで保証証書を確認できるようになっています。

この企業の秀逸な戦略は、自社の業務プロセスを改善するだけでなく、取引先企業にもこの仕組みを提供した点にあります。
これにより、自社だけでなく、取引先の顧客もその利便性を享受できるようになりました。

これらの導入による最大の成果は、業務の効率化にとどまらず、データを活用して戦略的な経営判断ができるようになったことです。この戦略は、最終的に同社の保証サービスの市場シェア拡大にも貢献しています。

最後に

テクノロジーの力を活用すれば、業務の効率化だけでなく、新たな価値の創出や顧客体験の向上が可能です。デジタル時代において、ビジネスの成長には迅速で柔軟な対応が求められます。これからの時代、デジタル技術をどのように活用し、柔軟に適応できるかが、企業の成長を左右する重要な鍵となるでしょう。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。