システム内製を阻む壁をどう乗り越えるか

2018/05/18

企業内にIT体制をつくってインハウス化するメリット

いまやITは企業の事業活動の根幹となっています。ビジネスそのものと言っても良いでしょう。たとえば金融業はもはやIT装置産業といっても過言ではありません。運送業もそう、消費財メーカーも然りです。

また流通小売業においてはITの強さが特に収益に顕著に顕れます。アパレルのZARAは顧客の反応を見ながら新商品を3日に1回売り場に届けて短期間に売り切ってしまうというビジネスを完成させています。そのモデルをITが裏で強力に支えています。またユニクロやファッション通販のZOZOTOWNもITを駆使した企業として知られています。

コンビニエンスストアは1日8時間の営業時間を3回転させるモデルで他の小売りと差別化されていますが、これを支えているのはやはりITで、このITの優劣が各CVSチェーンの平均日販額の差と言われています。

このようにITがビジネス戦略そのものであり、その中身やスピードが競争力に直結する以上、いかに機動性や臨機応変さを担保できるかがポイントになります。

そのために従来のように外部ベンダからシステムを調達するのではなく、企業内にIT体制をつくってインハウス化するという潮流があります。これは巷で「システムの内製化」とか「自社開発」「ラボ開発」と呼ばれているものです。

システム内製を阻む社会事情の壁

もっともITエンニジア人口の7割がユーザー企業に所属する米国では、わざわざ標語にするほどもなくシステム内製は当たり前です。その一方、日本の場合、システムベンダからユーザー企業へのエンジニア移動を伴いますので産業全体として一足飛びにはいきません。

そもそも自社にITエンジニアを確保するといっても、開発業務のピークに合わせて人材を雇用するわけにいきません。だからこそ、そのバッファとして外部のシステムベンダを活用してきた背景があります。米国企業では開発業務のヤマを越えたらITエンジニアとの雇用契約を終了できても、日本ではそう簡単に雇用契約を打ち切ることができない、という社会事情もあります。

これらがシステム内製を阻む壁となって、一部の先進的な企業が導入しているに留まっているのが現状です。

それではシステムの内製化は、人件費に余裕がある企業か、ITを理解している社長がトップダウンで号令かける以外に、道筋は無いのでしょうか?

システムの内製化の本質から道を探ってみる

私は決してそうは思いません。内製化の本質は、エンジニアを自社に確保すること以外のことにあると考えるからです。それについて以下に記載します。

1.自社がITを主導すること

日本の企業は、システム開発の手段として外部のシステムベンダを活用してきましたが、人材のバッファを求めるだけに留まらず、システムを丸ごと依存するようになりました。

その副作用として自社にとってのブラックボックスを増やすことにつながりました。結果、システムの臨機応変さを損ねるばかりでなく、コストも高止まりし、技術的な負債も増えたのです。

従って企業、とりわけ自社にとっての失地回復が必要です。それはIT戦略や要件定義、マネジメントなどあらゆる局面で自社が主導権を握ることです。

2.自社に知識、ノウハウが残ること

外部のシステムベンダに丸ごと依存し、ブラックボックス化することで、ベンダに知識とノウハウは残れども、自社には何も残らないという状況を生み出しました。

これを失地回復することによって開発プロセスを共有し、知識やノウハウという無形なる資産を自社に残すことが本質的に重要と考えます。また次世代のリーダーが育つことにもつながります。

結び

私が真の意味で重要かつ本質的と思う2点を書きました。

これだけでも達成することができるなら、臨機応変、変化即応を維持しつつも調達コストが下がりますし、その後維持コストまでもが下がります。さらに自社が主導し、かつ何より自社に知識とノウハウが蓄積されるような仕組みがあれば、マンパワーは開発量に応じて外部調達すれば良いのです。

システムの内製化というのをエンジニアの確保という面で捉えると行き詰まってしまいます。一方、自社のIT体制を戦略的な面からとらえると、様々な方向性が見えるはずです。

文責:谷尾 薫 オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社
企業のシステム内製化コンサルティング