DXで専門家に「正解」を求める会社は、たぶん失敗する

「システムのことは分からない。だから専門家に相談しよう。」

これは当然の判断です。

システム会社に相談する。
AIに詳しい会社に相談する。
ITコンサルタントに相談する。

自社にない知識や経験を専門家から借りることは、むしろ積極的にやるべきだと思います。

しかし、ここには一つ落とし穴があります。

専門家に相談することと、専門家に判断を任せることは、まったく違います。

「専門家なのだから、最も良い方法を教えてくれるだろう」そう考えてしまうと、DXやシステム投資は少し危ない方向へ進み始めます。なぜなら、「自社にとって何が正解か」を知っている専門家は、どこにもいないからです。

専門家は「専門領域の正解」を持っている

もちろん、専門家には専門家にしか分からないことがあります。

  • システム会社なら「この要件なら、こういうシステム構成がよい」と提案できます
  • AIの専門家なら「今のAIなら、ここまで自動化できる」と教えてくれます
  • 現場の担当者なら「実際の業務では、ここが一番困っている」と教えてくれます
  • ITコンサルタントなら「この方法とこの方法があり、それぞれにこういうメリットとリスクがある」と整理できます

それぞれの専門領域では、とても重要な情報です。
しかし、「では、会社としてどれを選ぶべきなのか」となると、話は変わります。

  • 5,000万円を投資して全面刷新するのか
  • 1,000万円で部分改修するのか
  • 業務を変えてシステムには手を入れないのか
  • 今は何もしないのか
  • そもそも、この事業に今後も投資するのか

ここまで来ると、もはや技術の問題ではありません。経営判断です。
そして経営判断について、社外の専門家が「これが正解です」と決めることはできません。

システム会社の提案が間違っているわけではない

ここは、よく誤解されるところです。
システム投資がうまくいかなかったとき、「ベンダーの提案が悪かった」という話になることがあります。

もちろん、提案そのものに問題があるケースもあります。しかし、すべてがそうとは限りません。

例えば、「基幹システムを全面刷新したいので提案してください」と依頼されたシステム会社が、新しい基幹システムを設計し、必要な機能を整理し、5,000万円の見積りを出したとします。

技術的にも妥当。機能も揃っている。見積りも適正。それでも、その5,000万円がその会社にとって正しい投資とは限りません。

なぜでしょうか。システム会社が答えたのは、「全面刷新するなら、どう作るか」という問いだからです。

その一つ手前に、「そもそも全面刷新すべきなのか」という別の問いがあります。
こちらはシステムの問題ではありません。経営の問題です。

数千万円の全面刷新が「一部改修」に変わった

以前、「基幹システムが古くなったので、全面刷新を考えています」というご相談をいただいたことがあります。
すでに複数のシステム会社から提案を受けており、数千万円規模の投資を前提に話が進み始めていました。

提案内容に大きな問題があったわけではありません。
必要な機能が整理され、将来性も考慮された、よくできた提案でした。

しかし、私たちはすぐにベンダー比較を始めませんでした。
まず、「この投資によって、何を解決したいのか」を整理しました。

経営者や現場担当者に話を聞き、実際の業務を確認していくと、違う景色が見えてきました。

  • 同じデータを何度も入力している
  • 部署によって運用ルールが違う
  • Excelで加工された数字が、いつの間にか正式な数字として扱われている

つまり、困っていたことのかなりの部分は、古いシステムそのものではなく、業務の進め方にあったのです。

結果として、「全面刷新する」以外にも、「業務プロセスを見直し、必要な部分だけシステムを改修する」という選択肢が見えてきました。最終的には、当初想定していた投資規模を大幅に圧縮して目的を達成することができました。

ここで重要なのは、システム会社の提案を否定したことではありません。
経営側に、「この提案は自社にとって本当に必要なのか」を評価する物差しを取り戻したことです。

では、経営者がITに詳しくなければならないのか

ここまで読むと、「結局、経営者が全部判断しなければならないのか」と思われるかもしれません。

そうではありません。

経営者がデータベースを選ぶ必要はありません。
クラウドの構成を設計する必要もありません。
どのAIモデルを使うべきかを比較する必要もありません。

そこは専門家に任せればよいのです。
経営者に必要なのは、ITの正解を出すことではなく、経営として選択することです。
そのためには、むしろ専門家を積極的に使う必要があります。

専門家には、むしろ早く相談した方がいい

「システム会社に相談する前に、経営側ですべて整理しましょう」という考え方があります。
基本的には正しいと思います。しかし、私は最近、それだけでは少し遅いとも考えています。

特に生成AIのように技術の変化が速い領域では、経営側が知らない選択肢を、専門家が持っているからです。

「今のAIなら、こんなことができます」と聞いて、「だったら、この仕事そのものをなくせるのではないか」と気づくこともあります。

システム会社から、「それなら新しく作らなくても、既存サービスでできます」と言われるかもしれません。
あるいは、「簡単な試作品なら2週間で作れます」と言われるかもしれません。

こうした情報を、経営判断が全部終わった後に聞くのでは遅い。だから、専門家には早く相談すればいい。

  • AIで何ができるのか聞く
  • システム会社から技術的な選択肢を出してもらう
  • 簡単なPoCをする
  • 概算費用を出してもらう
  • 他社事例を聞く

全部やればよいと思います。専門家を早く入れること自体は、問題ではありません。

問題は、そこで出てきた提案を「専門家が言うのだから正解だ」と受け取ってしまうことです。

情報はもらう。選択肢も出してもらう。でも判断は渡さない

DXでは、この区別がとても重要です。専門家から、

  • 情報をもらう
  • 知識をもらう
  • 選択肢を出してもらう
  • メリットとデメリットを整理してもらう
  • 試作品を作ってもらう
  • 費用を出してもらう

場合によっては、「そもそも御社が考えている方法とは別のやり方がありますよ」と、経営側の前提そのものを壊してもらってもよい。
むしろ、そこまで専門家を使った方がよいと思います。

しかし最後に、「では、どれを選ぶのか」「何をやらないのか」「いくら投資するのか」「どこまで会社を変えるのか」を決めるのは経営です。

言い換えれば、専門家は使い倒していい。しかし、経営判断まで渡してはいけない。ということです。

「相談」と「判断」を分けると、DXはむしろ速くなる

従来のDXでは、

経営が方針を決める。
業務部門へ伝える。
要件を整理する。
システム会社へ相談する。

という順番で進めることが多くありました。

しかし、技術の変化が速い現在、この一直線の進め方では時間がかかります。

むしろ、経営者、現場、システム会社、AI専門家、ITコンサルタントそれぞれが早い段階から参加し、情報を往復させる。

経営側が「こういう会社にしたい」という仮説を出す。
専門家が「それなら、こんな方法があります」と返す。
現場が「実際にはここが問題です」と返す。
小さく試してみる。
結果を見て、経営側が判断を更新する。
また専門家が新しい選択肢を出す。

こうした往復を高速で回す。

ただし、その中心には常に、経営判断があります。

DXで重要なのは、「誰に最初に相談するか」ではありません。
誰から情報を集め、誰が最後に判断するのか。その役割を混同しないことです。

ITコンサルタントも「正解を決める人」ではない

では、ITコンサルタントは何をするのでしょうか。
ここでも、「専門家なのだから正解を教えてくれる人」と考えてしまうと少し違います。

少なくとも私たちは、経営者の代わりに答えを決めることが、ITコンサルタントの仕事だとは考えていません。

私たちの役割は、経営者が判断できる状態をつくることです。例えば、

  • 何が本当の課題なのかを整理する
  • 現場の意見を集める
  • 業務の実態を確認する
  • システム会社から技術的な選択肢を引き出す
  • それぞれの費用を比較する
  • リスクを見えるようにする
  • 「全面刷新」「部分改修」「SaaS利用」「何もしない」といった複数の選択肢を並べる

そのうえで、「それぞれを選んだ場合、会社はどう変わるのか」を経営者と一緒に考える。
そして最後に、「では、経営としてどれを選びますか」という状態まで持っていく。

これがITコンサルタントの重要な役割だと考えています。

DXで「任せていいこと」と「任せてはいけないこと」

整理すると、それぞれの役割は次のようになります。

相手任せていいこと任せてはいけないこと
現場業務実態・困りごとの提示全社最適の判断
システム会社技術・実現方法の提案投資そのものの是非
AI専門家AIで可能なことの提示AIを使うべきかという経営判断
ITコンサルタント課題・選択肢・費用・リスクの整理経営判断そのもの
経営者専門的な技術判断何を選び、何に投資するか

経営者が全部を知る必要はありません。むしろ知らないことは、どんどん専門家に聞けばよいのです。

ただし、専門知識を借りることと、意思決定を外注することは違います。この境界を曖昧にしないことが重要です。

「正解」は買えない

DXについて分からないことがあれば、専門家にはどんどん相談すればよいと思います。
システム会社にも、AI専門家にも、ITコンサルタントにも。自社だけで考えていては見えなかった選択肢を、専門家はたくさん持っています。

しかし、一つだけ専門家から買えないものがあります。「自社にとっての正解」です。

専門家から買えるのは、知識、経験、技術、情報、選択肢、判断材料。そこまでです。

それらを使って、「何を変えるのか」「何を残すのか」「何をやらないのか」「いくら投資するのか」を決める。それが経営の仕事です。

DXで専門家に任せるべきなのは、「答えを出してもらうこと」ではありません。
自分たちが、より良い判断をできる状態をつくってもらうことです。

専門家には早く相談する。
たくさん意見を聞く。
時には、自分たちの前提さえ壊してもらう。
でも最後の判断だけは、自分たちで行う。

その関係を作れるかどうかが、DXや大きなシステム投資の成否を分けるのではないでしょうか。


専門家の提案を「判断できる状態」にしませんか

システム会社から提案を受けている。
AI活用を検討している。
基幹システムを刷新すべきか迷っている。
しかし、「本当にこの方向でよいのか」を社内だけでは判断しきれない。

そのような段階からご相談いただけます。

オーシャン・アンド・パートナーズは、特定の製品やベンダを前提とせず、発注側の立場から、

  • 何が本当の課題なのか
  • どんな選択肢があるのか
  • それぞれに、どの程度の費用とリスクがあるのか
  • 経営として何を判断すべきなのか

を整理します。私たちが代わりに「正解」を決めるのではありません。
経営者が、自社にとっての正解を判断できる状態をつくる。それが私たちの役割です。

「まだ何を発注するか決まっていない」という段階でも構いません。
まずは、いま何を判断すべきなのかを一緒に整理してみませんか。

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この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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