「まず経営、次にIT」は正しい。でも、それではDXが遅すぎる

DXを進めたい。
業務を効率化したい。
AIを活用したい。

こうした話が出たとき、多くの企業ではまずシステム会社やITベンダーへの相談を考えます。

  • 「どんなシステムを導入すればよいでしょうか」
  • 「生成AIを業務で使えませんか」
  • 「この業務をデジタル化できませんか」

しかし、本来その前に経営側で考えるべきことがあります。

何を実現したいのか。
どの業務を変えたいのか。
何を残し、何をやめるのか。
そして、そのために本当にシステムが必要なのか。

つまり、経営判断 → 事業・業務 → ITという順番です。

これはDXを考えるうえで、これまで繰り返し語られてきた原則でもあります。
しかし、ここで一つ疑問があります。

本当に今も、この順番で進めればよいのでしょうか。

「経営が決めてからIT」では、遅すぎるかもしれない

経営戦略を決める。
業務改革の方針を決める。
対象業務を整理する。
必要なシステムを検討する。
そしてシステム会社へ相談する。

理屈としては非常にきれいです。
しかし、このプロセスを一つずつ順番に進めていたら、実際にシステムが動き始めるのはいつになるでしょうか。

半年後かもしれません。
1年後かもしれません。
大規模な基幹システムであれば、数年後ということもあります。

その間にも、市場は変わります。
顧客ニーズも変わります。
競合も動きます。
そして何より、テクノロジーそのものが変わります。

特に生成AIの進化を見ていると、この問題はより顕著です。
半年前には難しかったことが、現在では比較的簡単に実現できる。
そんな変化が現実に起きています。

そう考えると、「経営が全部決めてからITが動く」という考え方そのものを、一度見直す必要があります。

ITから経営へ問いを投げてもよい

たとえば、生成AIを考えてみましょう。
ある企業がAIについて調べているうちに、「過去の提案書や案件情報をAIに参照させれば、提案書の初稿を自動的に作れるかもしれない」と分かったとします。

すると、単なるIT導入の話ではなくなります。

  • 営業担当者は、これまで何に時間を使っていたのか
  • 提案書作成という仕事は、どこまで人間が行う必要があるのか
  • 営業担当者の役割そのものを変えられないか
  • 営業部門の人数や組織のあり方まで変わる可能性はないか

こうした問いが生まれます。
つまり、ITの可能性が、経営に新しい問いを投げかける。
という逆方向の流れです。

従来の考え方では、経営 → 事業 → 業務 → ITでした。

しかし現在は、IT・AI「こんなことができる」→「だったら、この仕事自体を変えられないか」→ 経営判断という逆流も起こります。

これは決して悪いことではありません。
むしろ、技術の変化が速い時代には必要な動きです。

「AIで何ができますか?」と聞くことは間違いではない

DXについて、「技術から入ってはいけない」と言われることがあります。
確かに、「AIが流行っているからAIを導入しよう」「競合がDXをやっているから、うちも何かやろう」という進め方には問題があります。

しかし、「AIで何ができますか?」とシステム会社へ聞くこと自体が悪いわけではありません。
むしろ積極的に聞けばよいのです。

問題は、その後です。
「こんなAIがあります」と言われて、「では導入しましょう」と進んでしまう。
そして導入してから、「ところで、これを何に使いましょうか」と考え始める。

これが危険なのです。

一方で、「こんなことができます」という話を聞き、

  • 「だったら当社のこの仕事は変えられないか」
  • 「この業務自体をなくせないか」
  • 「新しいサービスを作れないか」

と経営側へ問いを戻す。
そして小さく試してみる。
結果を見て、経営判断を更新する。

これならITを起点としていても、立派な経営改革です。

必要なのは「経営→IT」ではなく「経営⇄IT」

ここまで考えると、DXに必要なのは一方向の順番ではないことが分かります。
経営 → ITでも、IT → 経営でもありません。
必要なのは、経営 ⇄ ITという往復です。

経営側が「こんな事業にしたい」という仮説を出す。
IT側が「それなら、この技術を使えばここまでできる」と返す。
小さく試してみる。
そこで得られた結果を経営側へ戻す。

すると、「だったら事業のやり方そのものを変えよう」という新しい判断が生まれる。
そして、またIT側が動く。

つまり、経営仮説 ⇄ IT実験を高速で繰り返すのです。

経営判断が完成するまでITが待つ必要はありません。
IT側も、経営方針がすべて決まるまで待っているのではなく、

  • 「こういうこともできます」
  • 「ここまでなら短期間で試せます」
  • 「実際に試したところ、こんな結果になりました」

と、経営判断の材料を先回りして提示する。その横で経営側も判断を更新していく。

これが、これから求められるスピード感ではないでしょうか。

では「順番」はどうでもよいのか

ここで注意が必要です。
「経営とITは同時に動けばよい」という話だけをすると、結局、「とりあえずAIを導入してみよう」という話に戻ってしまいます。

そうではありません。
ITが先行してよい領域と、経営判断が先に必要な領域を分ける必要があります。

たとえば、次のようなものは、IT側が多少先行してもよいでしょう。
そこで得られた結果を経営判断へ戻せばよいからです。

  • 数週間で試せるAI活用
  • 小規模なPoC
  • 業務の一部分だけを対象にした実験

しかし、次のようなものまで「まず作ってみましょう」では困ります。
ここには明確な経営判断が必要です。

  • 数千万、数億円規模の基幹システム刷新
  • 全社業務プロセスの変更
  • 長期契約
  • 組織そのものを変えるようなシステム投資

つまり、小さな探索ではITが先でもよい。
大きな投資では経営判断が先に必要。
そして、その間を高速で往復する。

この使い分けが重要なのです。

本当の問題は「順番」ではなく「主導権」

そう考えると、DXがうまくいかない企業の本当の問題は、システム会社へ相談する「時期」だけではありません。
もっと重要なのは、誰が経営判断の主導権を持っているのかという問題です。

システム会社へ早く相談すること自体は問題ありません。

技術動向を聞く。
実現可能性を聞く。
概算費用を聞く。
試作品を作ってもらう。

むしろ積極的に活用すべきです。

しかし、次のような判断までシステム会社へ委ねてはいけません。

  • 「どの業務を変えるのか」
  • 「どこまで標準化するのか」
  • 「何を捨てるのか」
  • 「どの程度の投資をするのか」
  • 「その投資によって会社をどう変えたいのか」

なぜなら、それはシステムの問題ではなく、経営の問題だからです。

システム会社が決められないことがある

システム会社はITの専門家です。
技術について多くの知識を持っています。
しかし、次のようなことまで、システム会社が決めることはできません。

  • その会社がどの事業へ集中するのか
  • どの顧客を大切にするのか
  • どの業務を標準化し、どこを自社の強みとして残すのか
  • 5年後にどんな会社になりたいのか

それにもかかわらず、「新しい基幹システムを検討したいので提案してください」とだけ依頼すると、システム会社は当然、システムの提案をします。

ERP、クラウド、パッケージ、スクラッチ開発、AI。
それぞれの会社が、自社の得意な方法を提案するでしょう。
それ自体は何も間違っていません。

しかし、経営側に判断軸がなければ、提案を比較することができません。

結果として、機能が多い、価格が安い、大手だから安心、AIが使われている、といった分かりやすい条件で決めることになります。

ここから、大きなIT投資の失敗が始まります。

システム会社へ相談する前に「答え」を作る必要はない

ただし、ここでも誤解してはいけません。
システム会社へ相談する前に、完璧な要件定義書を作る必要はありません。
すべての業務を整理する必要もありません。
むしろ、それでは時間がかかりすぎます。

必要なのは「答え」ではなく、経営としての仮説と判断軸です。たとえば、

  • 「受注から出荷までのリードタイムを半分にしたい」
  • 「個人に依存している業務を減らしたい」
  • 「5年後には現在の人数でも売上を1.5倍にできる体制にしたい」
  • 「独自業務は残すが、それ以外はできるだけ標準化したい」

この程度でも構いません。
これがあれば、システム会社との会話は大きく変わります。
「どんなシステムがありますか?」ではなく、「この状態を実現するために、ITで何ができますか?」と聞けるからです。

そしてシステム会社から新しい可能性を示されたら、経営側もまた仮説を更新すればよいのです。

システム会社の役割も変わる

これからのシステム会社に求められるのは、経営から渡された要件をそのままシステムにすることだけではないでしょう。
技術を知っているからこそ、

  • 「その業務は、もう別のやり方ができます」
  • 「AIを使えば、この前提自体を変えられるかもしれません」
  • 「システムを作らなくても、この方法なら実現できます」

と経営へ問いを返す。つまり、経営の選択肢を増やすことも重要な役割になります。

一方、経営側には、その選択肢を評価し、やるのか、やらないのか、どこまでやるのか、いくら投資するのかを判断する責任があります。

この役割分担ができて初めて、経営とITが高速で回り始めます。

DXに必要なのは「正しい順番」より「速い往復」

DXという言葉が登場した頃、「DXはIT部門だけの仕事ではない」「まず経営課題から考えるべきだ」という指摘には大きな意味がありました。その考え方は今でも間違っていません。

しかし、技術の変化がこれだけ速くなった現在、経営がすべてを決めてからITへ渡すというやり方もまた、見直す時期に来ています。

経営が問いを出す。
ITが可能性を返す。
小さく試す。
結果を経営へ戻す。
経営判断を更新する。
またITが動く。

この往復をどれだけ速く回せるか。

それが企業の変化する速度そのものになっていくはずです。

だからこそ重要なのは、「経営とITのどちらが先か」ではありません。
ITを使って経営判断を速くすること。
そして、どれだけITが先行しても、経営判断の主導権だけは手放さないこと。
この二つです。

システム会社へ相談するのは、早くても構いません。
AIについて聞くのも構いません。
新しい技術を試すのも構いません。

ただし、
「何のためにやるのか」
「どこまで投資するのか」
「その結果、会社をどう変えたいのか」
という判断まで外部へ委ねてはいけません。

DXとは、システムを導入することではありません。
テクノロジーによって経営の選択肢を増やし、その選択肢から自ら判断し続けること。

そう考えれば、DXに必要なのは一本道の正しい「順番」ではなく、経営とITの間で、問いと判断を高速に往復させる仕組みなのではないでしょうか。


オーシャン・アンド・パートナーズの支援

オーシャン・アンド・パートナーズでは、システムありきではなく、経営・事業・業務・ITの間に立ち、企業側の意思決定を支援しています。

「何を作るか」がまだ決まっていない段階でも構いません。
経営課題や事業課題を整理し、ITで試せることは小さく試し、その結果を次の判断へつなげます。
そして大きな投資が必要になった段階では、要件整理、RFP作成、ベンダー選定、プロジェクト推進まで発注側の立場で伴走します。

「システムを導入したい」ではなく、「会社をどう変えるべきか。そのためにITをどう使うべきか」という段階からご相談ください。


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DXは、単独のシステム導入ではなく、IT投資やプロジェクト運営、AI活用まで含めた経営全体の取り組みです。あわせて、以下の記事もぜひご覧ください。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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