アナログ商売だからこそ、デジタル化が活かせるという話し

2019/05/01

先日、某商工会議所のセミナーを聴講していたときのことです。
「結局、商売はアナログが命、だからITとは程々に距離を置いて付き合うのがよろしい!!」
と声高に講師が締めくくるシーンを目の当たりにしました。ちなみにその講師はITコーディネーターです。

「ITを啓蒙してリードする立場にいるあなたがそれを言ってはおしまいよ」と心の中で思わず呟いてしまいましたが、これが地域や産業によるIT格差が助長される要因のひとつでもあると感じました。

おそらく全国津々浦々で、ITの肩書を持った専門家がまことしやかに語っている、これが現実なのでしょう。
地域や伝統産業の力を盛り返すべく牽引していくべきなのに、挑戦を促さず、徹底的に現状肯定、といった様子にがっかりしました。
今回はこの件についての持論を展開してみます。

 

人を相手にする商売である以上、アナログが生命線であることは大前提

かく言う私自身は、ITの分野で働いているものの、自称超アナログ人間です。実家が地方で飲食をやっていて、人付き合いによる営みを間近に見て育ってきたせいか、一番興味があって今も勉強し続けているのは心理学やマーケティング論だったりします。本業の当社オーシャンの仕事でもシステムに関与することはありません。職務はもっぱら顧客のよろず相談窓口兼、飲み会企画担当です。そんな私ですから「商売はアナログが命」であることは言われる前から身に染みています。

またアナログという表現は、洞察力とか、対応力とか、察知力、臨機応変力といったふうに、人間ならではの能力と言い換えることもできますが、そもそも「ホスピタリティ」とか「おもてなし」といった言葉にもあるように、古くからの商慣習として、日本人にとって身近な考え方でもあります。これを踏まえると、話しの結びとしてわざわざ「アナログが大事」だと言うことが体を成さないことです。

つまりどのような商売を営んでいても、人を相手にする以上、アナログが生命線であることは大前提なのです。
「ITが拡がって世の中が便利になった。しかしITは万能ではない。結局アナログが後生大事だから基本に戻ろう」という文脈で語られるようなことでは決してありません。

我々はデジタルとどのように向き合うべきか

さてアナログが生命線であることを大前提としたときに、我々はデジタルとどのように向き合うべきでしょうか。
某講師が云うように、アナログと相反する存在として距離を置くべきでしょうか。

私は真逆の考え方で、デジタルを徹底的に使いこなすべき、と考えます。
デジタルの本質のひとつに「同じ作業でも今までより短い時間でできるようになる」というのがあります。例えば携帯電話の進化は、思い立ったときにその場で話せる、という時間短縮を生みました。インターネットの進化は、欲しいものをその場で購入でき、その場で決済もできるという時間短縮を生み出しました。以前は在庫確認のために、購入が決定するまでに1日程度の時間がかかることもあったのに関わらずです。

このようなデジタルによる時間短縮の機会は、IT化が進んでいないところほど、余白がたくさんあります。その余白をお客様との対面機会に振り向けてみれば、より多くのお客様に集中して対応できるようになり、商売のチャンスが拡がるでしょう。つまり、より多くの人に会ったり、もっと対面時間を増やしたり、お客様と会っている時間をよりクリエイティブにできるということです。デジタルを徹底的に使いこなす、というのはこういう事ではないでしょうか。

そもそもデジタルはコストなのか、それとも先行投資なのか

ちなみに気付いている会社は、すでに先行投資していて、そんなところも増えています。周りに誰もやっていなければ、みんなが同じ条件で戦っている状況なのですが、何処かが既に始めている場合は、その格差を埋めないと、周回遅れが生じてしまいます。自社の営業パーソンが一日に接触できる客数が50人のところを、ライバルが100人接触していて、その時間も密度も濃いとなれば、そこには敵わないでしょう。このような発想はデジタルをコストと見なす限り出てきません。

つまり得意客をどんどん他所に持って行かれないような施策は何か、得意客にもっと喜んで頂けるために自社がどうあるべきなのか、ビジネスの価値からデジタル化を前向きに語れることが、実は望まれていることではと思うのです。そんな意味で、ITの専門家が垣間見せるアナログ世界に寄り添う姿勢に、私はあまり良い印象を持てません。アナログ住民代表の私にとっては、寄り添うポーズに価値は感じなくて、もっとこちらの世界に踏み込んできて欲しいと感じるからです。これからはアナログとデジタルは表裏一体、商売の世界と専門家の世界は二人三脚、そんな価値観が求められるのではと思います。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。