「発注者の隣で戦う」という、私たちの仕事の本質 -次世代ITプロジェクト設計フォーラム講演録

先日、都内で開催された「次世代ITプロジェクト設計フォーラム」で、ITプロジェクトの現場で長年抱いてきた違和感、
そしてそれを解決するための取り組みについてお話ししました。
ここでは、その内容をコラムとしてまとめてご紹介します。
テーマは「技術者が正当に評価される仕組みづくり」、そして 「発注者のすぐ隣で価値を生む設計」 です。
目次
ご挨拶
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社の谷尾 薫でございます。
本日はどうぞよろしくお願い致します。
今日ここにいらっしゃる皆さまは、それぞれの現場で重要な役割を担われています。
私はいつも思うのですが、「一番汗をかく人が、一番評価されない」ような世界にしてはいけない。
今日は、その思いの延長線にある話を少しだけさせてください。
変えたかった構造

少し個人的な話になりますが、
私はこの業界で20年以上、ずっと強い違和感を抱いていました。
それは、多重下請け構造が技術者の価値を奪っていることです。
現場で汗をかき、改善策を誰よりも理解し、
最もお客様に貢献している技術者が、
階層の一番下に置かれ、正当に評価されず、
報酬も適切とは言えない。
この構造が続く限り、
日本のIT産業は本質的な強さを持てない──
そんな危機感をずっと抱えてきました。
かたやアメリカでは、
「一生プログラマー」という働き方が胸を張って成立している。
その差は明らかです。
だからこそ私は、
下請けではなく“お客様のすぐ隣”で価値を生む部隊をつくること、
小さくても力のある企業が正当に評価される舞台を作ること。
これを自分の仕事の核に据えてやってきました。
実績①:金融DX(全国の金融機関へ)

その取り組みが、ようやく“形”になり始めています。
一つ目が、金融機関向けの教育DXです。
お客様の業務は長年、
申込・受検・結果確認まで、紙とFAXに依存した非効率な状態でした。
私たちはお客様と一緒に業務を再設計し、
申込〜受検〜結果管理を完全デジタル化。
さらに、人事教育部門が受検・受講状況をリアルタイムに把握できる仕組みを構築しました。
この仕組みは今、
都市銀行 → 地方47都道府県の地銀 → 信用金庫へと全国展開し、
“金融教育インフラ”として定着しています。
そしてここで、非常に大事なことがあります。
当然ですが、この成果はすべてお客様のものです。
主役はあくまでお客様であり、私たちは裏側で支える黒子にすぎません。
ただ──その「裏側」を作り込む仕事、つまり
どんな仕組みならお客様が成功できるのか、
どう設計すれば業界が変わるのか。
そこを考え、構造をつくり、動く形にしたのは、私たち技術者の仕事でした。
そしてそれは、誰の目に触れなくても、【技術者が誇りを持って語れる仕事】だったと断言できます。
実績②:不動産DX(業界No.1へ)

もう一つは、不動産売買の手付金保証DXです。
申請・審査・証書発行をすべてオンライン化し、
保証会社の業務フローをゼロから再設計しました。
特筆すべきは、お客様が
自社の改善だけでなく、“取引先にもこの仕組みを提供した”点です。
これにより、不動産取引全体が効率化され、
取引先の顧客もその利便性を享受できるようになりました。
この仕組みは、
大手デベロッパーに急速に浸透し、
保証料取扱高は業界No.1となりました。
これも、成果はすべてお客様のものです。
しかし“変化を実現できる設計図”を作ったことで
技術者が誇れる成果につながった、と実感しています。
実績③:調剤DX(医療・ドラッグストア領域)
三つ目は、医療・薬局業界の“調剤DX”です。
この領域では、
大量処理 × 高速化 × 自動化 × 多拠点連携
という高度な要件が求められます。
私たちは、
調剤センターの機械インフラの最適化、
多店舗をつなぐセンター化構造、
そして安全性・品質担保の仕組みを設計しました。
結果として、
大手ドラッグストアグループへの導入が決定し、
現在サービス提供の準備が進んでいます。
医療・薬局という「人の命に関わる領域」で、
この領域でも、裏側を支えた技術者の仕事の価値が
大きく認められたと感じた瞬間でした。
なぜ成果が出せたのか?
なぜ、これらの成果が生まれたのか。
理由はたった一つ。
私たちは“下請け”としてではなく、
発注者と同じテーブルで、一緒に構想したからです。
要件を与えられる立場ではなく、
課題を共に整理し、未来の仕組みを共に描く立場で仕事をした。
だからこそ、技術者は本来の力を発揮し、
お客様は正しい投資判断ができ、
業界にとって価値ある仕組みが生まれた。
これはまさに、
“技術者が主役になる部隊をつくる”という私のテーマが、
実績として動き始めた証左だと感じています。
共に価値をつくるアライアンスへ

そして──
これからはこの流れを、志を同じくする仲間と一緒に広げていきたいと考えています。
小さくても力のある企業が、
公正に評価され、
発注者のすぐ隣で価値を発揮できる舞台をつくる。
このビジョンに共感してくださる企業と、
強みを掛け合わせ、
新しい仕組みを一緒に作っていきたい。
「共に考え、共に創り、共に報われる」──
そんな新しい協業モデルを皆さまと築けたら、とても嬉しく思います。
本日はありがとうございました。
(オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役 谷尾 薫)
この記事を書いた人について




