「ITは苦手なので」は、もう禁句にしませんか

システム導入や業務改革の打ち合わせをしていると、よく聞く言葉があります。

「すみません、私たちITは全然分からないんです」
「ITはどうも苦手でして・・」

営業も、経理も、生産部門も口にします。経営者から聞くこともあります。

最初に断っておきます。この記事は、「これからは全員ITに詳しくなりましょう」という話ではありません。営業担当者がプログラムを書く必要はありません。経理担当者がクラウドの仕組みを理解する必要もありません。経営者がシステムのアーキテクチャを勉強する必要もありません。分からない技術は、専門家に任せればいい。

私が違和感を持っているのは、そこではありません。

会社に来ればパソコンを開き、メール、Excel、基幹システム、Web会議、チャットを使う。仕事が終わればスマートフォンを開き、SNSを見て、買い物をして、銀行を使い、地図を見て、動画を見る。

朝から晩まで、ITの中にいるのです。

それでも私たちは、なぜかITだけは、「自分とは別の世界」として扱いがちです。

私はここに、システム導入やDXがうまくいかない原因の一つがあると思っています。

問題は、ITを知らないことではありません。すでに仕事そのものがITと一体化しているのに、いまだに「業務」と「IT」を別々のものとして考えていることです。

かつては「業務」と「IT」を分けてもよかった

以前なら、それでもよかったのかもしれません。

まず業務がある。伝票を書く、電話をする、帳簿をつける、集計する、報告書を作る。そこへコンピューターを導入して、作業を効率化する。

つまり、業務 → ITが支援するという関係です。

この時代なら、「業務のことは私たちが考えます。ITのことはIT部門に任せます」という分業が成立しました。ITは仕事そのものというより、仕事を効率化するための道具だったからです。

ところが、いまはどうでしょう。

受注も、発注も、在庫管理も、顧客管理も、請求も、入金管理も、生産計画も、経営数字の把握も、ほとんどが何らかのシステムの上で行われています。

  • システムが止まれば仕事も止まる
  • システムの設計を変えれば、仕事の流れも変わる
  • システムに入力する項目を変えれば、現場の行動も変わる

もはやITは、「仕事を支援するもの」ではなく、「仕事そのものを構成するもの」になっています。

AIによって、その境界はさらに消えていく

そしてAIの登場によって、この変化はさらに進んでいます。

これまでは、人が仕事をして、その一部をシステムが支援するという関係が比較的分かりやすく存在しました。しかし生成AIやAIエージェントが業務に入り始めると、その境界さえ曖昧になります。

  • 文章を作る
  • 顧客情報を整理する
  • 問い合わせに回答する
  • データを分析する
  • 資料を作る
  • 判断材料を提示する

これまで「人間の仕事」と考えていた領域の中に、ITが直接入り始めています。

すると、「まず業務を考えて、あとからITを考える」という順番そのものが成立しない場面も増えてきます。

業務を考えることと、ITを考えることを、きれいに分けられなくなっているのです。

そんな時代に、「ITはよく分からないので、そこは専門家に」だけで済ませられるでしょうか。

任せていいITと、任せてはいけないITがある

ここは、とても重要なところです。

ITのことを全部自分たちで考えろ、と言っているわけではありません。むしろ、技術的なことは専門家へ任せた方がいい。

  • どのプログラミング言語を使うか
  • クラウドをどう構成するか
  • データベースをどう設計するか
  • どんな技術方式で実装するか
  • セキュリティをどう担保するか

こうしたことは専門家の領域です。

問題は、その先です。例えば、

  • 営業担当者にどこまで入力を求めるのか
  • 顧客ごとの例外対応をどこまで許すのか
  • ベテラン社員しかできない仕事を残すのか、標準化するのか
  • 誰にどこまで承認権限を持たせるのか
  • 現場の負荷を多少増やしてでも、経営が必要なデータを取るのか
  • 会社として何を標準化し、何を例外として残すのか

これらはシステムの話に見えます。しかし、本当は違います。

これは、仕事をどう設計するかという話です。

そして、それを決められるのはシステム会社ではありません。

「ITは分からないので」の後ろに、何が続くのか

だから私は、「ITは分からないので」という言葉そのものを問題にしているわけではありません。大事なのは、その後です。

「ITは分からないので、技術的なことは専門家に聞きます」なら、何も問題ありません。

しかし、「ITは分からないので、どうすればいいか決めてください」となると、話は変わります。

システム導入の現場では、この境界が非常に曖昧になります。「どんなシステムにしたいですか?」と聞かれる。「ITは分からないので、いい感じにお願いします」と答える。

するとシステム会社は困ります。技術的な解決方法は提案できます。しかし、

  • 「御社はこれから、どんな営業をしたいのですか」
  • 「どこまで業務を標準化したいのですか」
  • 「どの例外を捨てる覚悟がありますか」
  • 「誰にどんな仕事をさせたいのですか」

という問いには、代わりに答えられません。

結局、現在の業務を聞き取って、それをそのままシステム化する。すると数年後、「新しいシステムを入れたのに、何も変わっていない」ということが起きます。

これは、珍しい話ではありません。

必要なのは「ITの勉強」ではない

ここまで読むと、「では、社員にIT教育をしなければ」と思うかもしれません。しかし、私は少し違うと思っています。

もちろん最低限のITリテラシーは必要です。ただ、それだけでシステム導入やDXがうまくいくわけではありません。

もっと大事なのは、ITを自分たちの仕事と切り離して考えないことです。

技術が分からなければ聞けばいい。AIで何ができるか分からなければ、専門家に聞けばいい。新しいシステムで何が可能になるのか分からなければ、それも聞けばいい。

そして、その答えを材料にして、「だったら、自分たちの仕事をこう変えられないか」と考える。

ここから先は、IT担当者だけの仕事ではありません。営業も、経理も、生産も、経営者も参加する領域です。

「ITは苦手なので」は、そろそろ禁句にしてもいい

「禁句」というと、少し乱暴かもしれません。別に、本当に言ってはいけないわけではありません。

私が言いたいのは、「ITは苦手なので」を、自分が考えなくてよい理由にしない方がいいということです。

なぜなら、もうITの外側に「本業」がある時代ではないからです。

営業の中にITがある。経理の中にITがある。生産の中にITがある。経営の中にもITがある。そしてこれからAIが浸透すれば、その境界はさらに見えなくなっていくでしょう。

そんな時代に必要なのは、ITの専門家になることではありません。ITを自分たちの仕事として引き受けることです。

ITを学べ、ではない。ITを自分たちの仕事として考えよう

DXや業務改革というと、新しいシステムを導入することや、AIを活用することに目が向きがちです。しかし、その前に変えるべきものがあります。

「業務」と「IT」を別々のものとして扱う発想です。

「これは業務の話」「ここから先はITの話」と線を引くのではなく、「この仕事を、ITと一緒にどう作り直すか」と考える。

ITに詳しくなる必要はありません。分からないことは、専門家に聞けばいい。しかし、自分たちの仕事をどうするかという判断まで、専門家に渡す必要はありません。

ITを学べ、ではない。ITを自分たちの仕事として考えよう。

私は、それがシステム導入やDXを本当の意味で「自分たちの改革」に変える第一歩だと思っています。


システムの話になる前に、「何を決めるべきか」を整理する

オーシャン・アンド・パートナーズでは、システムを選ぶことからではなく、その前にある「会社として何を変え、何を決める必要があるのか」という整理からシステム導入をご支援しています。

技術的な判断は専門家に任せればいい。一方で、自社で決めるべきことまでシステム会社へ渡してしまわない。その境界を整理しながら、構想策定、要件整理、RFP作成、ベンダー選定、プロジェクト推進まで、発注側の立場で伴走します。

「ITのことはよく分からない。でも、自分たちの仕事をどう変えるべきかは考えたい」

その段階からのご相談で構いません。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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