一生懸命、現状維持していませんか?| 10分を3分にする前に、0分にできないか

コンビニで住民票を取れるようになりました。

役所へ行かなくてもいい。窓口で待たなくてもいい。時間を気にせず取得できる。便利です。

でも、その住民票を別の行政手続きに提出するために取っているのだとしたら、ちょっと不思議です。

行政が持っている情報を、住民がいったん紙にして、それをまた行政に提出する。もちろん実際には、制度や権限、本人同意、情報管理など、いろいろな事情があります。

ここで言いたいのは行政制度の話ではありません。発想の話です。

「どうすれば住民票を便利に取得できるか」と考えるのか。それとも、「そもそも、なぜ住民が取得して提出するのか」と考えるのか。

前者なら、コンビニ交付という答えが出てきます。後者なら、「取らなくていい」という答えが出てくるかもしれません。

実は行政の世界でも、これは「ワンスオンリー(一度出した情報は二度と求めない)」という原則のもと、なくすべき矛盾として長年問題視されてきました。

にもかかわらず、なぜコンビニ交付が先に普及したのか。それは「各機関のデータ連携や法改正」という根本の変革(WHAT)に挑むより、「紙をどこでも刷れるようにする」という効率化(HOW)のほうが、組織の壁にぶつからず圧倒的に進めやすかったからです。

この違い、企業のIT投資でもよくあります。

効率化は、現状を肯定してから始まりやすい

「もっと便利にしよう」「もっと速くしよう」「もっと人手を減らそう」

IT投資ではよく聞く言葉です。どれも正しい。

ただし、一つだけ暗黙の前提があります。「今やっていることは、これからもやる」という前提です。

例えば、10分かかっている入力作業をシステム化して3分にする。70%の効率化です。素晴らしい。

でも、「そもそも、この入力は必要なのか?」と聞いたら、0分にできるかもしれない。

効率化の落とし穴はここにあります。効率化は、現状を肯定してから始めてしまいやすい。

効率化は「HOW」、変革は「WHAT」

私は、効率化と変革をこう分けています。

効率化とは、同じことを、より少ない時間・人・コストでやること。
変革とは、そもそも、やること・やり方・提供価値を変えること。

効率化は「どうやるか(HOW)」を変える。変革は「何をやるか(WHAT)」から疑う。

例えば、請求書処理です。

紙の請求書をOCRで読み取り、人の入力を減らす。これは効率化です。

取引先から請求データを直接連携し、人が入力する仕事そのものをなくす。これは業務変革です。

さらに、そのデータをリアルタイムで使い、資金繰り予測や仕入条件の判断まで変える。ここまでいけば、経営変革です。

整理すると、

  • 効率化――同じ仕事を、どう速くするか
  • 業務変革――その仕事自体を、どう作り直すか
  • 経営変革――その情報を使って、会社の判断や価値の生み方をどう変えるか

使っている技術が最新かどうかではありません。最初に何を問うかが違うのです。

効率化は「誰も傷つけず、数字で測れる」

では、なぜ企業は効率化を選びやすいのでしょうか。

現場の人が「そもそも」を考えていないからでしょうか。そんなことはありません。むしろ現場の人ほど、「この仕事、本当に必要なのかな」と思っていたりします。

それでも仕事は残ります。理由は単純です。効率化の方が安全だからです。

今の業務を否定しない。今の組織を大きく変えない。誰かの役割をいきなりなくさない。

「この業務、なくてもいいのでは」と言えば、その仕事を長年やってきた人がいます。「この承認、必要ですか」と言えば、その承認を担っている部署があります。

何かをなくして問題が起きれば、「誰がなくすと決めたんだ」となる。だったら、なくすより、速くする。変えるより、便利にする。その方がずっと安全です。

しかも、効率化にはもう一つ強みがあります。数字で説明できます。

  • 「年間2,000時間削減できます」
  • 「5人分の工数を削減できます」
  • 「3年で投資回収できます」

稟議にも書きやすい。

一方、「顧客との関係を変えます」「営業のやり方を変えます」「新しい収益モデルを作ります」となると、「で、いくら儲かるの?」と聞かれます。当然です。

ところが、新しいことほど、始める前には正確に答えにくい。すると、合理的にIT投資を選んでいるつもりでも、数字で説明しやすい「現在の延長線上の投資」ばかりが残っていく。

極端に言えば、IT投資を厳密に評価するほど、効率化ばかりが残る。少し皮肉な話です。

そして、ここには現状維持バイアスも働いているのだと思います。

何もしないことだけが現状維持ではありません。変えることによる摩擦やリスクを避けながら、今あるものをより良くしていく。一生懸命改善しているのに、前提だけは変わっていない。企業では、そんな形で現状維持バイアスが現れることもあります。

DXを進めている。システムも刷新した。AIも導入した。かなり変革している感じがする。

でも、「そもそも、なぜこの仕事をしているのか」だけは誰も聞いていない。これは、なかなか厄介です。

「必要ですか?」ではなく、事実を調べる

では、どうすればいいのでしょうか。

いきなり会議で、「この仕事、いらなくないですか?」と言う必要はありません。たぶん、あまり良いことは起きません。

まず、事実を調べる。

  • この帳票は、最後に誰が見たのか。
  • この入力データは、その後どこで使われているのか。
  • この承認では、実際に何がチェックされているのか。
  • この作業をやめたら、誰が本当に困るのか。

「この帳票、必要ですか?」と聞けば、「念のため必要です」となりがちです。

では、「直近半年で、誰が何回見ましたか?」ならどうでしょう。答えは意見ではなく、事実になります。

もし半年間、誰も見ていない。使われた形跡もない。それでも「念のため必要」なら、次は限定的に止めた場合の影響を確認してみる。

対象を絞る。期間を決める。問題があれば戻せるようにして、小さく試す。

すると、「なくしたら困ると思っていた仕事」が、実はなくても誰も困らなかった。そんなことが見えてくるかもしれません。

変革というと、大きな構想を描くことのように聞こえます。でも最初の一歩は、案外地味です。

今ある仕事の存在理由を、意見ではなく事実で確かめる。そこからでも十分始められます。

3分にする前に、0分を考える

効率化は必要です。無駄な仕事は減らせばいい。自動化できるものは自動化すればいい。AIで速くできるなら、使えばいい。

ただ、その前に一度だけ、問いを変えてみる。

「もっと速くできないか?」ではなく、

  • 「これ、誰がいつ使っているのか?」
  • 「何のためにあるのか?」
  • 「やめたら、誰が本当に困るのか?」

その結果、「やっぱり必要だ」となれば、思い切り効率化すればいい。

大切なのは、今あるものを無条件に正解にしないことです。

住民票をコンビニで取れるようにするのか。そもそも、取りに行かなくてよくするのか。10分を3分にするのか。0分にできないか考えるのか。

この差は、技術の差ではありません。問いの差です。

次の効率化を考えるとき、目の前の仕事を一つだけ疑ってみる。それくらいからでいいのだと思います。

私たちは今、会社を変えようとしているのか。

それとも、一生懸命、現状維持しているのか。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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