「その他」が過半数になろうとしていた。POSレジが問い直した経営の前提

「その他」という分類が示した、企業の想定と現実のズレ
2014年7月23日、日本記者クラブで行われた講演で、
フューチャーアーキテクトの金丸恭文氏が、1980年代のコンビニエンスストアにおける興味深いエピソードを紹介されていました。
当時のコンビニは、近隣住民の買い足し需要に応えるだけではありません。
子供がお菓子や飲み物を買い、若者が夜食や雑誌を求めて立ち寄るなど、さまざまな生活シーンで利用されていました。
金丸氏は、そうした時代のコンビニが主な顧客として捉えていた層を、次の3つに分けて紹介しています。
- 若者
- 子供
- 主婦
金丸氏の説明によれば、POSレジには、この3分類に「その他」を加えた4種類の合計キーが設けられていました。
いずれかを押さなければ、レジが開かない仕組みです。
つまり、日常の販売業務を行うだけで、
原則としてすべての取引に客層情報が記録されるようになっていたわけです。
ところが、実際にデータを集計すると、
主な顧客として想定されていなかった「その他」が、過半数に迫る勢いで増えていたというのです。
その「その他」とは誰なのか。
金丸氏は、講演会場に集まった人々を指して、全員が「その他」に該当すると説明されました。
スーツ姿のビジネスパーソンや、働く女性たち。
従来の想定には収まらなかった人々が、大きな顧客層を形成しつつあったのです。
もちろん、店員の目視による分類ですから、必ずしも正確な情報ばかりではなかったでしょう。
しかし、この話で注目したいのは、データ収集の仕組みそのものではありません。
顧客を理解するために用意した分類が、現実を十分に説明できなくなっていた可能性を示したことです。
- 「若者」「子供」「主婦」という分類には、当時の企業がどのような顧客を想定していたのかが表れている
- 「その他」は、その想定から外れた人たちをまとめるための分類
その「その他」が大きな割合を占めるようになったことは、
従来の顧客像や分類方法を見直すべき重要な兆候でした。
当初は合理的だった分類であっても、
顧客や市場が変われば、現実を十分に説明できなくなることがあります。
私たちはデータを収集するとき、顧客区分、案件種別、取引理由など、さまざまな分類を設けます。
一見すると、客観的な事実を記録しているだけのようです。
しかし、そこには「何を区別することが重要なのか」という、設計時点の判断が反映されています。
つまり、データの分類方法そのものに、企業の考え方や前提が組み込まれているのです。
金丸氏が紹介したPOSレジのエピソードは、
販売現場の情報を収集する仕組みが、経営の仮説を検証する手段にもなり得ることを示しています。
そして、そこからもう一つ考えたいことがあります。
データによって経営の前提を検証するためには、そのデータをどのような前提で分類しているのかも、問い直す必要があるのではないでしょうか。
間違った前提の上に、正しく動くシステム
この話は、現在の業務改革やシステム刷新にも通じます。
例えば、営業管理システムの刷新を考えてみます。
従来のシステムでは、失注理由を次のように分類していたとします。
- 価格
- 機能
- 納期
- その他
新しいシステムを導入する際、この分類をそのまま引き継げば、
過去のデータとの整合性を保ちやすく、移行作業も比較的容易になります。
しかし、ここで一つ確認しておきたいことがあります。
その分類は、現在の失注理由を適切に捉えられているのでしょうか。
例えば、顧客側の意思決定プロセスが変化し、
従来の分類では説明しにくい理由で失注することが増えていたとします。
例えば、顧客側の意思決定プロセスや購買行動が変化し、次のような理由で失注することが増えていたとします。
- 顧客の情報システム部門が導入に反対した
- セキュリティ審査を通過できなかった
- 顧客が自社開発を選択した
これらは、価格・機能・納期という従来の分類では捉えきれない失注理由です。
ところが、入力できる選択肢が従来のままであれば、こうした変化はすべて「その他」に集約されてしまいます。
その結果、失注件数は正確に集計できても、顧客の購買行動が変わりつつあることには気づけないかもしれません。
その状態で、
- システムを刷新し
- 入力画面を改善し
- 集計処理を高速化した
としても、失注の実態を理解するための情報が十分に得られるとは限りません。
システムは要求どおりに動いています。
入力されたデータも、定義されたルールに従って正確に処理されています。
それでも、経営判断に必要な情報が得られていない可能性があります。
間違った前提の上に、正しく動くシステムを作ることはできてしまう。
システムが正しく稼働していることと、
そのシステムが事業の実態を適切に捉えていることは、別の問題です。
そして、業務システムの刷新では、この違いが見過ごされることがあります。
現行システムの機能やデータ項目を詳しく調査し、漏れなく新システムへ移行する。
それ自体は必要な作業です。
しかし、現行の仕組みを正確に再現することが、現行の考え方まで正しいと保証するわけではありません。
要件定義では、その前提まで問えているか
では、こうした問題を避けるために、要件定義では何を確認すべきでしょうか。
先ほどの失注理由の例であれば、
単にマスタの項目や入力方法を決めるだけでは不十分です。
まず、その分類が何のために存在しているのかを確認する必要があります。
- 営業担当者の活動を評価するためか
- 商品やサービスの改善点を把握するためか
- 競合との比較や、価格戦略を検討するためか
目的によって、必要な分類や情報の粒度は異なります。
さらに、次のような点も確認しておきたいところです。
- 分類の目的:その情報を使って、誰が何を判断するのか。
- 分類の妥当性:必要な情報を、過不足なく捉えられる分類になっているか。
- 想定外の扱い:「その他」が増えたとき、その内容や背景を確認できるか。
- 見直しのルール:分類が実態に合わなくなったとき、誰がどのように見直すのか。
重要なのは、何のためにその情報を集めるのかを明確にし、その目的に適した仕組みを設計することです。
また、システムだけで完結する問題でもありません。
収集した情報を誰が分析し、どのような判断に使うのか。
そこまで含めて考えなければ、データを蓄積するだけで終わってしまいます。
金丸氏が講演で紹介されていたのも、
POSによって販売現場の情報を集め、それを単品管理や仮説検証に活用するという、ITと経営戦略の結びつきでした。
情報を集めること自体が目的なのではありません。
その情報を使って何を判断し、どう事業に反映するかが重要なのです。
こうした点は、システムの画面やデータベースを設計する段階になって初めて考えることではありません。
業務の目的や判断の仕組みを整理する、要件定義の段階から考えておくべきことです。
正しいシステムを作る、その前に
金丸氏が紹介した「その他」という数字は、当時の顧客像を見直すきっかけになり得るものでした。
この話から学べるのは、データを大量に収集することの重要性だけではありません。
何を記録するのか、どのように分類するのか。その設計自体に、企業の判断や前提が表れているということです。
そして、その前提は、事業環境の変化によって妥当性を失うことがあります。
システム刷新において、現行業務を正確に把握することは欠かせません。
しかし、
- 現行業務を正確に把握すること
- その業務が今も適切なのかを確認すること
この2つは、別の仕事です。
オーシャン・アンド・パートナーズが業務改革やシステム刷新で重視しているのは、この違いです。
お客様から示された要件を、そのまま機能に置き換えるのではなく、
その業務や情報が何のために存在し、どのような判断を支えているのかまで確認する。
必要であれば、業務の進め方やデータの持ち方そのものを見直す。
間違った前提を、より速く、より正確に実行するシステムにしないために。
「正しいシステムを作る」その前に、
「何を正しいと考えているのか」を確かめる。
そこから、私たちの考える超上流工程は始まります。
参考資料
金丸恭文氏(フューチャーアーキテクト)
日本記者クラブ講演・記者会見(2014年7月23日)
当時の肩書:内閣府規制改革会議 農業ワーキング・グループ座長
講演動画:https://www.youtube.com/watch?v=YAd3YghCyNA
この記事を書いた人について

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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。






















