AIに仕事を奪われる?中小企業の現場で起きている本当の不安

「AIを導入すれば、もっと仕事が楽になるのに」

経営者からすれば、そう見えることがあります。

  • 資料作成に2時間かかっていたものが30分になる
  • 調査や集計もAIが手伝ってくれる
  • 人手不足にも対応できる

いいことばかりに見えます。ところが、現場は思ったほど動かない。

先日、中小企業のAI導入について話をしていた際、「AIで自分の仕事がなくなることを恐れているのではないか」という話を耳にしました。

だが、問題はもう少し根深い。

彼らが恐れているのは、本当に「仕事がなくなること」なのでしょうか。

経営者は「生産性」、現場は「存在価値」の話をしている

経営者はこう考えます。

「AIを使えば、この仕事は半分の時間でできる」

しかし、その仕事を20年間やってきた人にはどう聞こえるでしょう。

「あなたが20年間身につけてきた仕事は、AIなら半分の時間でできます」

同じ話でも、意味はまったく違います。

経営者が見ているのは会社の生産性です。働く側が気にしているのは自分の存在価値です。

だから話が噛み合わない。

しかも、これは一般社員だけの問題ではありません。むしろ影響が大きいのは、事業責任者や管理職かもしれません。

  • 部下が作った資料を確認する
  • 情報を集約して上へ報告する
  • 過去の経緯を知っているから判断を求められる
  • 部署間の情報をつなぐ

こうした仕事によって、管理職としての役割が成立しているケースは少なくありません。

ところがAIによって、情報収集も資料作成も整理も速くなる。部下自身がAIを使って判断材料まで揃えられるようになる。

そこで、「では、自分は何をする人なのか」という問いが生まれます。

AIへの抵抗を「ITが苦手だから」「新しいものが嫌いだから」で片付けると、この問題は見えません。

AIが暴くのは「その人は何で価値を生んでいたのか」

AIが最初に代替していくのは、仕事のすべてではありません。

  • 入力する
  • 転記する
  • 検索する
  • 集計する
  • 要約する
  • 資料のたたき台を作る

こうした「作業」です。問題は、その作業がなくなった後です。

これまで、

  • 「Excelに詳しい」
  • 「資料を作るのが速い」
  • 「過去の経緯を全部知っている」
  • 「この人を通さないと話が進まない」

といったことが、その人の社内での価値になっていたかもしれません。

AIは、その一部を急速にコモディティ化します。

すると残るのは、

  • 何を決めるのか
  • 顧客とどう向き合うのか
  • 意見の違う人をどう調整するのか
  • 結果について誰が責任を負うのか

といった仕事です。

AIによって人の価値がなくなるのではありません。これまで曖昧だった「その人は何によって価値を生んでいたのか」が、否応なく見えるようになる。

ここにAI導入の怖さがあります。

「仕事を奪われる」のではなく、自分が価値だと思っていたものが、実はAIでもできると分かってしまう。

不安になるのは当然です。

「空いた時間で付加価値を」は、そんなに簡単な話ではない

ここでよく言われるのが、「AIで空いた時間を、もっと付加価値の高い仕事に使いましょう」という話です。

方向としては正しい。しかし、現実はそんなに簡単ではありません。

資料作成が2時間から30分になったからといって、空いた1時間30分で営業担当者が突然、新規顧客への提案を始めるわけではありません。

集計作業が自動化されたからといって、経理担当者が翌日から経営分析をできるようになるわけでもありません。

長年「正確に作業すること」を求められてきた人に、突然、「これからは自分で考えて価値を生んでください」と言っても無理があります。

しかも、これは本人だけの責任ではありません。そういう仕事のさせ方をしてきた会社側にも責任があります。

「AIで空いた時間を有効活用してほしい」だけでは、経営者から社員への丸投げになってしまいます。

仕事が減った人に次に何を求めるのか。そのために何を学んでもらうのか。評価基準をどう変えるのか。管理職には何をマネジメントしてもらうのか。

そこまで変えなければ、AIで生まれた時間は単なる「余った時間」です。

「AIは仕事を奪わない」という綺麗事では済まない

AIによって、必要性が下がる仕事や役割は実際に出てくるでしょう。

「AIは人の仕事を奪いません」と言い切るのは無責任です。

これまで3人必要だった仕事が1人でできるようになるかもしれない。部下10人を管理していた管理職が、3人を管理すれば済むようになるかもしれない。情報を右から左へ伝えることが主な役割だったポジションは、必要なくなるかもしれません。

では、その人たちをどうするのか。

  • 別の仕事を担ってもらうのか
  • 学び直してもらうのか
  • 役割や評価を変えるのか
  • 場合によっては、組織そのものを変えるのか

ここから先は、AIの問題ではありません。経営の問題です。

AI導入で問われるのは、経営者の覚悟

だから、「とにかくAIを使おう」という号令だけでは、導入が進まないことがあります。

社員や管理職からすれば、「AIを使った結果、自分はどうなるのか」という一番重要な問いに答えてもらっていないからです。

AIで仕事が半分になったとき、

  • 半分の人を減らすのか
  • 空いた半分の時間で、新しい仕事をしてもらうのか
  • そのために教育するのか
  • 仕事そのものを作り直すのか

答えを出すのはAIではありません。経営者です。

AI導入で本当に難しいのは、AIの使い方を覚えることではないのかもしれません。AIによって「今まで必要だった仕事」が必要なくなったとき、その会社を次にどう変えるのか。

そこを決めることです。

そしてAIが突きつけているのは、社員の能力だけではありません。これまで会社が、人にどんな仕事をさせ、何を価値として評価してきたのか。

経営者自身もまた、AIによってそれを問われています。

だから最初に考えるべきことは、「どのAIを導入するか」だけではありません。AIによって今の仕事が減ったとき、その人たちに次に何を期待するのか。

まず、それを経営者自身の言葉で説明できるようにする。

AI導入の第一歩は、プロンプトを入力することではなく、AIが入った後の会社をどうするのか、経営者が方針を示すことから始まるのではないでしょうか。


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この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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