業務改革が進まないのは、現場のせいなのか。

「来月から、受注内容の変更は営業担当者が直接システムに入力する形に変えます」

これまでは、営業からの変更依頼を受け、事務担当者が内容を確認し、基幹システムに入力していました。

新しい業務では、営業担当者が直接入力する。
一定の条件ならそのまま反映し、例外だけ事務担当者が確認する。

  • 二重入力がなくなる
  • 確認の電話も減る
  • 処理も速くなる

なかなか合理的です。

ところが、事務担当者からは
「それでは回らないと思います」
という声が上がります。

さらに営業からも、
「商談時間を削って、事務作業をやれと言うんですか?」
と反発されます。

さて、どうしましょう。

業務を「なくす」のと「変える」のは違う

以前、業務を「捨てる」ことについて書きました。

長年続いてきた業務でも、目的や頻度、影響、代替手段などを確認すれば、必ずしも残す必要がないものがあります。

そのときの中心的な問いは、
「この仕事を、これからもやる必要があるのか」
です。

一方、業務を変える場合は事情が違います。

「新しいやり方で、本当に仕事が回るのか」
という問いが残ります。

業務をなくす場合でも、残る仕事への影響は確認しなければなりません。
しかし、業務を変える場合には、新しい仕事の流れそのものを成立させる必要があります。

しかも、ある人の仕事を減らせば、別の人の仕事が増えることもあります。

そこが難しいところです。

事務担当者がやっていたのは「入力」ではなかった

先ほどの例に戻ります。

事務担当者に「なぜ営業が直接入力する方法では駄目なのですか」と聞くと、
「営業から来る情報は、そのまま入力できるようなものではありません」
という答えが返ってきました。

では、実際の受注変更を一件、最初からたどってみます。

  • 納期が決まっていない
  • 正式な商品コードではなく、商品名だけで依頼が来る
  • 顧客との電話で合意した内容が、備考欄にしか残っていない
  • 変更内容によっては、一度キャンセルして受注し直す必要がある

事務担当者は、そうした情報を確認し、足りない情報を補い、必要に応じて営業へ問い合わせ、基幹システムに入力できる形へ整えていました。

つまり、事務担当者がやっていたのは、単なる入力作業ではありません。

不完全な依頼を、処理可能な受注データへと変換する仕事だったのです。

業務フローに「受注変更入力」と一行だけ書いてあっても、そこまでは見えません。

例えば、営業担当者は商品コードを調べる時間がないから、商品名で依頼していたのかもしれません。
そこに「商品コード必須」の入力画面を渡したら、どうなるでしょうか。

事務担当者がやっていた商品コードの確認作業が、営業担当者に移るだけです。

仕事をなくしたのではありません。
仕事をする人を変えただけです。

「事務の効率化」は、会社の効率化なのか

事務担当者の入力作業が減れば、事務部門は効率化されます。
しかし、営業担当者の入力作業は増えます。

もし営業が入力に時間を取られ、商談や顧客対応の時間を失うのであれば、会社全体として本当に効率化されたのでしょうか。

もちろん、営業が直接入力した方が確認の往復が減り、結果的に全体の時間が短くなるかもしれません。

重要なのは、それを確かめることです。

ある部門の仕事を減らしたことと、会社全体の仕事を減らしたことは同じではありません。

現場が反対している理由も、ここにあるかもしれません。

変化が嫌なのではなく、自分たちの負担が実際に増えると分かっている。
それを単なる「抵抗」と呼んでしまえば、重要な事実を見落とします。

「今のやり方が必要です」を、そのまま採用しない

事務担当者からは、こんな意見も出ます。

「だから、今まで通り事務が確認した方がいいんです」

確かに、もっともな話です。
しかし、ここで新しい業務案を撤回するのも早計です。

例えば、
「納期が未確定のまま変更依頼が来る」
これは業務上起きている事実です。

一方、
「だから事務担当者が営業に電話して確認する」
これは、現在採用している解決方法です。

両者は分けて考える必要があります。

  • 納期未確定の状態をシステムで管理する方法もあるでしょう
  • 商品コードが分からなければ、別の検索方法を用意できるかもしれません
  • 変更と再受注の判断条件を整理することも考えられます

ただし、それらが本当に有効かは別途検証が必要です。

仮登録を許した結果、出荷処理に問題が起きるかもしれない。
入力画面を改善しても、営業の負担は十分に減らないかもしれない。

現在のやり方が唯一の答えではない。
しかし、新しいやり方が正解とも限らない。

だからこそ、業務設計が必要なのです。

現場には、業務案を一度壊してもらう

新しい業務フローを説明したあと、
「このやり方で大丈夫ですか?」
と聞くことがあります。

しかし、この質問では、具体的な問題を十分に見つけられないことがあります。

「大丈夫」と答えたあとで事故が起きれば、自分の責任になるかもしれない。
反対に、細かな問題を挙げ続ければ、変更そのものが進まなくなるかもしれません。

そこで、聞き方を変えます。

  • 「昨日処理した受注変更を、この新しい方法でやってみると、どこで手が止まりますか?」
  • 「事務担当者が営業に確認するのは、どんな内容が多いですか?」
  • 「月末の処理件数が増えたとき、最初に詰まるのはどこですか?」
  • 「営業が外出中でも、この入力を完了できますか?」

抽象的な賛否を聞くのではありません。
実際に起きた仕事を材料に、新しい業務を動かしてみる。

そこで問題が出れば、なぜ止まったのかを調べる。

  • 判断条件が足りないのか
  • 必要な情報が揃わないのか
  • 処理能力が足りないのか
  • 責任者が決まっていないのか
  • それとも、単に慣れていないだけなのか

現場の「無理です」は、結論ではありません。
調査の入口です。

そして、出てきた問題をすべて新業務に取り込む必要もありません。

発生頻度、影響、代替手段、対応コストを見ながら、どこまで仕組みで吸収するかを判断します。

最後は、誰かが決めなければならない

ここまで調べても、全員にとって都合のよい業務になるとは限りません。

例えば、営業の入力負荷は多少増えるものの、受注から出荷までの時間を大きく短縮できるとします。

営業部門にとっては、歓迎できない変更かもしれません。
しかし、会社として納期回答の迅速化を重視するなら、その変更を選ぶ合理性はあります。

ただし、合理的な判断をしただけで、現場が動けるようになるわけではありません。

  • 営業の入力作業が増えるなら、その時間をどこから捻出するのか
  • 導入直後に処理が遅くなった場合、誰が支援するのか
  • 従来の評価基準をそのまま適用してよいのか

業務の変更を決めるだけではなく、変更後の仕事が成立する条件を整える。そこまでが経営の仕事です。

もちろん、検証した結果、当初想定していた効果が得られないと分かることもあります。
その場合には、変更方法だけでなく、変更するという判断自体を見直す必要があるでしょう。

経営が判断を引き受けるとは、最初の決定に固執することではありません。

現場の声を聞くことと、現場の答えを採用することは違う

業務改革では、「現場の理解を得ることが大切だ」とよく言われます。
もちろん、その通りです。

しかし、全員が納得するまで待っていては、いつまでも変えられないことがあります。
だからといって、経営判断を盾に押し切れば、見落としていた問題が現場で噴き出すかもしれません。

必要なのは、現場を説得する技術だけではありません。

現場の声から事実を拾い、現在の解決方法と切り分け、新しい業務が成立するかを検証すること。

そして、設計では解消できない負担や対立を、経営が引き受けることです。

業務を捨てるときは、残す理由を疑う。
業務を変えるときは、新しいやり方が本当に回るかを疑う。

新しい業務は、会議室では完成しません。

現場にぶつけ、壊してもらい、もう一度設計する。

それでも最後に残るのは、誰かが引き受けなければならない判断です。

業務を変えるとは、そういうことなのだと思います。

業務を変える。その前に、何を整理すべきか。

現場から出てくる反対意見を、単なる抵抗として片づけることも、すべて要件として取り込むことも、適切ではありません。

オーシャン・アンド・パートナーズでは、現場の業務実態や判断ルールを整理し、部門間の影響も踏まえながら、何を残し、何を変え、どう実現するかを発注側の立場で一緒に考えます。

業務改革やシステム刷新の構想段階からご相談いただけます。

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この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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