営業DXは、情報を集めるだけでは回らない― 4つの営業現場から考える「情報と判断の循環」

「それ、何で俺が入れなきゃいかんの?」

朝から得意先を何軒も回って会社に戻ってきた営業担当者に、CRMへの入力をお願いする。顧客名、商談内容、関心のあった商品、次回予定。

管理側からすれば、営業情報を会社に残すために必要な仕事です。

しかし、営業側にも言い分があります。

  • 「今日も一日お客さんを回ってきたんだけど」
  • 「これ、誰が見るの?」
  • 「入れたら、俺の営業に何か返ってくるの?」

一方、管理側では、

  • 「営業が情報を入れてくれない」
  • 「これではデータが貯まらない」
  • 「せっかくCRMを入れたのに活用できない」

という話になる。どちらかが明らかに間違っている、という話でもありません。

営業DXを考えていると、こうした場面によく出会います。そして興味深いのは、営業の形が変わると、まったく別の問題が出てくることです。

  • 長年同じ顧客を回る卸売業の営業
  • 「自分でデータを見て考えたい」という営業組織と、「答えを出してほしい」という営業組織
  • 数千、数万点の商品を扱う営業
  • 営業支援部門から次々と見込み客が送られてくる営業

一見すると、別々の話です。少し現場を覗いてみます。

CASE 1|卸・ルート営業――「あそこなら俺の方が知ってるよ」

長年、同じ得意先を担当している営業は、驚くほど顧客のことを知っています。

  • 「あそこは月末に行った方がいい」
  • 「この商品にはあまり反応しない」
  • 「去年もこの時期に同じ話が出た」
  • 「あの会社なら、むしろBを持っていった方がいい」

システムには入っていなくても、営業の頭の中には大量の情報があります。一方、会社にも情報はあります。受注履歴、商品別の販売実績、顧客別の購入頻度、季節による変動。

営業が、「あそこなら俺の方が知ってるよ」と言うのも、ある意味では正しい。しかし、会社も営業が知らないことを知っています。

例えば、ある顧客の商品Aの購入量が、この半年で少しずつ減っている。同じ属性の顧客では、最近商品Bが伸びている。これは個々の営業担当者より、会社のデータの方が見つけやすい情報です。

ここで面白いことが起きます。

会社は、「過去に何を買ったか」を知っている。営業は、「今、何に関心があるか」を知っている。どちらにも情報があるのに、別々に持っています。

例えば、

  • 「商品Aの購入量が落ちている」
  • 「同じような顧客では商品Bが伸びている」
  • 「そういえば先方が最近、○○について気にしていた」

この三つがつながれば、「次に行くとき、商品Bを持っていこう」という具体的な営業行動に変わります。

そして、実際に持っていったらどうだったのか。

  • 買ってくれた
  • 興味は示したが、今回は見送った
  • 時期が早かった
  • むしろ別の商品に反応した

その結果まで残せば、次に同じ顧客へ行くときの情報がまた増えます。単に「売れた・売れなかった」ではなく、何を提案して、顧客がどう反応したか。そこまで分かるようになる。

営業活動をするたびに、会社の顧客理解が少しずつ更新されていきます。

ところが、ここで最初の問題に戻る

そのためには、営業が顧客から聞いた話も会社に残してもらう必要があります。そこでCRMへの入力をお願いする。

すると、「それ、何で俺が入れなきゃいかんの?」となる。

これを「営業の意識が低い」で片付けるのは簡単です。しかし、入力された情報の行き先が、営業 → CRM → 管理職で終わっていたらどうでしょう。

営業担当者から見れば、報告業務が一つ増えただけです。

では、営業 → CRM → 他のデータと分析 → 次の提案候補 → 営業まで戻ってきたらどうでしょう。少し意味が変わります。

営業から情報をもらうなら、営業にも情報を返す。「入力してくれない」という現象だけを見るのではなく、入力した先に何があるのかまで見た方がよさそうです。

CASE 2|営業カルチャー――「答えを出して」vs「余計なことをしないで」

営業データの活用について話していると、会社によって反応がまったく違うことがあります。

ある会社では、「データを自由に見られるようにしてほしい」と言います。

  • 「この地域では何が伸びているのか」
  • 「この顧客層には何が売れているのか」
  • 「最近、この数字だけ動きが違うのはなぜだろう」

そこから先は営業自身が考えたい。つまり、「材料をくれれば、自分で答えを探す」という営業です。

ところが別の会社では、まったく違う反応があります。

  • 「分析画面はいらない」
  • 「今月の売れ筋を出してほしい」
  • 「この顧客に何を提案すればいいか教えてほしい」
  • 「優先して訪問すべき顧客を出してほしい」

こちらが欲しいのは分析材料ではありません。「で、何をすればいいの?」という答えです。

同じ「営業データを活用したい」という話なのに、求めているシステムはほとんど逆になります。

前者に、「AIが今週の推奨商品を選んでおきました」と言えば、「いや、それを考えるのが営業でしょう」となるかもしれない。

後者に、「好きな切り口で自由に分析できます」という高機能な画面を渡せば、「だから、結局何を売ればいいの?」となるかもしれません。

これは、営業担当者の能力や好き嫌いだけの話ではありません。その会社が、営業にどこまで「判断」を求めているのかという違いです。

営業自身が仮説を立てるところまで仕事なのか。本部や営業支援側である程度絞り込み、営業には顧客との対話や提案に集中してもらうのか。AIには、材料を整理させるのか、候補まで出させるのか。

同じデータを持っていても、誰に考えさせるかが違えば、必要なITも変わります。営業DXの議論が機能比較だけでは決まらない理由の一つです。

CASE 3|多品種営業――「もっと商品を勉強してもらわないと」

商品数が多い会社では、こんな話もあります。

「営業が商品を知らないんですよ」「もっと勉強してもらわないと」

確かに、商品知識は営業にとって重要です。そこで聞いてみる。

「商品は何点くらいあるんですか?」「2万点くらいです」

2万点。それを全部覚えて、顧客ごとに最適な商品を思い出して提案する。そもそも、その前提に無理はないでしょうか。

もちろん、主要商品について営業が勉強する必要はあります。しかし、「営業が知らない」ことだけを問題にすると、解決策は研修や教育になります。

前提そのものを変えると、別の方法が見えてきます。

例えば、自社のWebサイトを充実させ、顧客自身に商品を探してもらう。ここまでは普通のWebカタログです。しかし、その先があります。

ある顧客が最近、特定の商品カテゴリーを何度も見ている。関連商品のページも見ている。過去の購買履歴を見ると、その周辺の商品を以前購入している。

この情報を営業へ返したらどうでしょう。営業は、「最近、この分野をご覧になっているようですが、こういう商品もあります」と話を始められます。

営業が2万点の商品をすべて覚えている必要はありません。顧客自身が探した結果から、「この顧客は今、何に関心を持っているのか」を捉えればいい。

そう考えると、Webサイトの役割も変わります。商品を並べるだけの電子カタログではなく、顧客の関心を営業へ返すセンサーになります。

「営業の商品知識が足りない」という人の問題に見えていたものが、実は情報の流れを変えることで解決できる問題なのかもしれません。

CASE 4|営業支援と営業――「それを全部、俺たちが追うの?」

営業支援部門と営業部門。本来なら、同じ売上を目指しているはずです。ところが、この二つの部門はときどき険悪になります。

営業支援側が会議で報告します。「今月は30件、営業へ渡しています」

営業側から質問が出る。「30件って言うけど、商談になりそうなのは何件あるの?」「まず話してみないと分からないでしょう」「それを全部、俺たちが追うの?」

まだ会議なので、お互い言葉は選んでいます。しかし、本音を翻訳すると、営業支援は「せっかく見込み客を集めたんだから、ちゃんと追ってほしい」、営業は「確度の低いものを大量に渡して、件数だけ成果にしないでほしい」くらいのところまで来ています。

面白いのは、どちらかが間違っているわけではないことです。営業支援は、せっかく接点を持った顧客を取りこぼしたくない。営業は、限られた時間を可能性の高い顧客に使いたい。

どちらも正しい。だから、ぶつかります。

そして、営業が電話してみる

営業が実際に顧客へ電話します。すると、「興味はあります。ただ、予算を取るなら来年度ですね」と言われた。

営業からすれば、今すぐ商談になる案件ではありません。そこで、いったん終了する。

営業支援側から見ると、「営業へ渡したが、商談にならなかった顧客」になります。

しかし、ちょっと待ってください。

営業は、電話する前にはなかった重要な情報を手に入れています。「興味はある。予算は来年度」です。

この情報が営業支援側へ戻っていなかったら、かなりもったいない。来年度なら、それまで関係を切らなければいい。興味のあるテーマが分かっているなら、それに合った情報を届ければいい。「担当者は前向きだが決裁者が動いていない」と分かったなら、社内説明に使える事例や投資効果の情報が役に立つかもしれません。

営業が一度話したことで、顧客について以前より詳しくなった。ならば、その情報を営業支援側へ戻す。そして適切な時期に、もう一度営業へ戻す。

営業支援 → 営業 → 営業支援 → 情報提供 → 営業

営業支援と営業は、見込み客を押し付け合う関係ではありません。顧客について分かったことを、交互に持ち寄る関係と考えると、見え方が変わってきます。

4つの営業現場を並べてみると

ここまで、かなり違う営業の話をしてきました。

  • 卸・ルート営業では、会社が持つ購買データと、営業が持つ顧客情報が分かれていた。
  • 営業カルチャーの違いでは、情報はあっても、「誰が考えるのか」が違っていた。
  • 多品種営業では、顧客が示している関心を、営業が拾えていなかった。
  • 営業支援部門がある会社では、営業が顧客から得た情報が、支援側へ戻っていなかった。

一見すると、別々の問題です。営業が入力してくれない。BIを使ってくれない。商品知識が足りない。営業と営業支援がうまく連携できない。

こう並べると、どれも「人」の問題に見えます。

しかし、情報の動きに注目すると、別のものが見えてきます。

情報が一方通行になっている。

  • 集めた情報が、判断に使われない
  • 分析した結果が、営業へ返らない
  • 顧客が示した関心が、営業へ届かない
  • 営業が顧客から得た情報が、次の活動へ戻らない

そこで必要になるのが、情報 → 分析 → 判断 → 行動 → 結果 → 情報という流れです。

情報を集める。そこから何かを読み取る。誰かが判断する。営業が動く。顧客が反応する。その結果を、また次の判断に使う。

ここまで回って初めて、情報が営業活動の中を循環します。

営業DXで考えたいのは、単なる情報の蓄積ではなく、「情報と判断の循環」なのだと思います。

そう考えると、「何で俺が?」も違って見える

ここで、最初の営業担当者に戻ります。

「それ、何で俺が入れなきゃいかんの?」

最初に聞くと、面倒なことを嫌がっているだけのようにも聞こえます。しかし、ここまで見てくると、少し違って聞こえます。

  • 「その情報は何に使うのか」
  • 「誰が見るのか」
  • 「何を判断するのか」
  • 「その結果、俺には何が返ってくるのか」

そう考えると、「何で俺が入れなきゃいかんの?」は、案外、本質的な質問です。

営業に入力を求めることが悪いわけではありません。会社として営業情報を蓄積することも必要です。

問題は、「入力してください」で情報の設計が終わっていないかということです。

営業から情報をもらうなら、その情報を使って何かを営業へ返す。営業が動いたら、その結果をまた次へ戻す。そこまで設計されて初めて、「入力」は循環の一部になります。

ツールを選ぶ前に考えたい5つの問い

SFA、CRM、BI、Web、AI。具体的なツールを考える前に、自社の営業について5つのことを確認してみます。

  1. 何を知れば、次の営業判断が変わるのか。
    取れるデータから考えるのではなく、判断を変える情報から考える。
    顧客の購入量が落ちたことなのか。Webで特定の商品を調べ始めたことなのか。予算時期が来年度だと分かったことなのか。
    情報は、次の行動が変わって初めて意味を持ちます。

  2. その情報を、今誰が持っているのか。
    販売管理システムかもしれません。Webかもしれません。営業支援部門かもしれません。
    あるいは、ベテラン営業の頭の中かもしれません。「情報がない」のではなく、別々の場所にあるだけということがあります。

  3. 誰が分析し、誰が判断するのか。
    営業本人が考えるのか。営業支援が絞り込むのか。マネジメントが判断するのか。システムやAIが候補を出すのか。
    ここを曖昧にすると、「便利な分析画面を作ったのに誰も見ない」ということが起こります。

  4. 判断した結果を、営業へどう返すのか。
    分析レポートを作って終わりではありません。誰に行くのか。何を提案するのか。いつ声をかけるのか。
    営業の次の行動につながるところまで返す。営業に情報を入力してもらうなら、営業自身に何が返ってくるのかもここで考えます。

  5. 営業活動で得られた結果を、どこへ戻すのか。
    買った。断られた。まだ早かった。別の商品に興味を示した。予算は来年度だった。
    こうした顧客の反応を、次の分析、情報提供、提案に使える状態にする。

そして、5番目で戻ってきた情報は、また1番目の、「何を知れば、次の営業判断が変わるのか」につながります。この5つも、一周しています。

情報は、何周したかで価値が変わる

営業DXの話は、放っておくと、「どのSFAがよいか」「CRMをどう定着させるか」「AIで何ができるか」という話になりがちです。

しかし、4つの営業現場を見てきたように、営業の形は会社によってかなり違います。

  • 営業自身に考えてほしい会社もある
  • 答えをある程度用意して、営業には顧客との対話に集中してほしい会社もある
  • 顧客情報が営業の頭の中にある会社もあれば、Webに顧客の関心が現れている会社もある
  • 営業支援と営業の間を情報が行ったり来たりする会社もある

だから、必要な仕組みも違います。ただ、一つ共通することがあります。

情報を集めるだけでは、営業は強くなりません。情報を使って判断する。判断を営業活動につなげる。営業活動から得た結果を、また情報として戻す。そして次の判断を、少し賢くする。

一周目より、二周目。二周目より、三周目。顧客について分かったことが少しずつ増え、営業の判断も少しずつ変わっていく。

営業情報の価値は、「何件あるか」より「何周したか」で変わります。

営業DXで設計すべきなのは、情報を貯める箱だけではありません。その会社の営業に合った「情報と判断の循環」です。


営業情報、「集めること」が目的になっていませんか?

SFAやCRMを導入していても、情報が営業活動に戻ってこなければ、蓄積だけが増えていきます。

オーシャン・アンド・パートナーズでは、ツールありきではなく、

  • 何を知れば判断が変わるのか
  • 誰がその情報を持っているのか
  • 誰が判断し、どう現場へ返すのか
  • 営業活動の結果を、どう次につなげるのか

という情報と判断の流れから、営業DXや業務システムの構想を整理します。

  • 営業情報はあるのに活用できていない
  • SFA・CRMを見直したい
  • AIを営業にどう組み込むべきか整理したい

そんな段階からでもご相談いただけます。

▶ITプロジェクトの判断を相談する

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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