本当のユーザーは、会議室の外にいる――Webサイトを「社内承認」でダメにしないために

企業のWebサイト構築を支援していると、かなりの確率で出会う場面があります。
デザイン案を提示すると、「一度、社内で回覧します」「役員にも見てもらいます」「営業部門からも意見を集めます」となる。
企業のお金を使う以上、必要な承認を取るのは当然です。
ところが皮肉なことに、社内で丁寧に意見を集めるほど、Webサイトが弱くなっていくことがあります。
なぜでしょうか。
会議室には、肝心な人だけがいない
デザインレビューの会議室には、たくさんの人が集まります。
- 社長
- 担当役員
- 営業部長
- 広報担当
- Web担当者
主要な関係者は、ほぼ全員揃っています。しかし、一番重要な人だけがいません。
本当のユーザーです。
- 商品を探している顧客
- 取引先候補
- 採用応募者
- 初めて会社名を検索した人
彼らは、その会議には一度も出席していません。にもかかわらず、会議室ではこんな意見が飛び交います。
- 「文字をもう少し大きくしたほうがいい」
- 「もっと明るい色調にできないか」
- 「うちのコーポレートカラーは青だから、もっと青を使おう」
- 「商品一覧はぐるぐる廻せるほうがいいな」
どれも、それほどおかしな意見ではありません。だから厄介なのです。
社内の意見は、だいたい「もっともらしい」
営業には営業の事情があります。人事には人事の事情があります。経営者には経営者の思いがあります。それぞれの立場から見れば、意見には理由があります。
担当者としても、役員から出た意見を簡単に無視するわけにはいきません。そこで、「せっかくいただいた意見なので」と、一つずつ取り入れていく。
- 文字を大きくする
- 色を変える
- このサービスも載せる
- あの情報も追加する
- 表現を少し無難にする
すると最終的には、誰も明確には反対しないWebサイトが出来上がります。
社内的には、なかなかの成功です。ところが、画面の向こう側ではどうでしょう。
- 「この会社は何をしてくれる会社なのか」
- 「自分の課題と何の関係があるのか」
- 「なぜ、この会社を選ぶ必要があるのか」
それが伝わらなければ、ユーザーは静かにページを閉じます。
社内では満場一致。しかし市場では無反応。企業サイトでは、そんなことが普通に起こります。
社内承認には「責任を分散する」という側面もある
もう一歩踏み込んでみます。企業における承認は、必ずしも「より良いものを作るため」だけに行われているわけではありません。
「社長にも確認しました」「役員にも見てもらいました」「関係部署にも意見を聞きました」という事実を残しておけば、後から何か言われたときに説明できます。
つまり承認には、責任を分散するという機能もあります。これは組織で仕事をする以上、ある程度は必要でしょう。
ただし、ここで認識しておかなければならないことがあります。
責任を分散するためのプロセスと、良いWebサイトを作るためのプロセスは、同じではありません。
むしろ逆方向へ働くことさえあります。
多くの人の承認を取るほど、組織としては安全になります。一方で、
- 尖ったメッセージは丸くなる
- 情報は足し算される
- 誰かが嫌がりそうな表現は削られる
その結果、社内では説明しやすいが、社外には何も刺さらない。そんなサイトが出来上がります。
社内政治という「内輪の試合」に勝っていないか
ここで問題なのは、社内承認そのものではありません。何をもって「勝ち」としているのかです。
- 役員全員からOKをもらった
- 営業部門の要望も反映した
- 社長からも文句が出なかった
- 稟議も無事に通った
社内というフィールドだけを見れば、見事な勝利です。しかしWebサイトの本戦は、そこではありません。
本当の勝負は、会議室の外にあります。
- 検索結果から訪れた人が読み進めるのか
- 自分の会社に関係があると思ってくれるのか
- 問い合わせるのか
- 応募するのか
- 会社を覚えてくれるのか
社内政治という内輪の試合に勝って、市場という本戦で負けていては意味がありません。
Webサイトで本当に見るべきスコアボードは、社内承認の数ではなく、会議室の外にあります。
会議室の意見は、画面の外で「別の言葉」に変わる
社内では、「文字を大きく」「もっと青く」「商品を全部見せよう」と、それぞれもっともらしい意見が出ます。
しかし、その完成形を初めて見るユーザーの頭の中では、まったく別の言葉が流れているかもしれません。
- 「情報が多すぎて、結局何が大事なのか分からない」
- 「なんか見慣れたサイトと違う。使いにくいな」
- 「こっちが知りたいことより、会社が言いたいことばかりだな」
- 「なんか一世代前のサイトの感じだな」
ここが怖いところです。
会議室の中では「デザインについての意見」だったものが、会議室の外では「会社そのものへの評価」に変わる。
Webサイトを見るユーザーは、「この余白は役員の指示で削られたんだな」とは考えてくれません。目の前にあるWebサイトを、その会社自身として見ます。
問題は「意見を聞くこと」ではない
では、社内の意見を聞かなければよいのでしょうか。もちろん違います。
営業部門は、顧客が普段どんなことで困っているのか知っています。採用担当は、応募者が何を不安に感じているのか知っています。経営者は、これから会社をどこへ向かわせたいのか知っています。これらはWebサイトを作るうえで重要な一次情報です。
問題は、情報をもらうことと、デザインを採点してもらうことを混同していることです。
営業部門に聞きたいのは、「このデザインどう思いますか?」ではなく、「最近の商談で、顧客から最もよく聞かれることは何ですか?」です。
採用担当に聞きたいのは、「この写真どうですか?」ではなく、「応募者が入社前に不安に感じていることは何ですか?」です。
経営者に聞きたいのは、「青と緑、どちらが好きですか?」ではなく、「これから、どんな顧客から選ばれる会社になりたいですか?」です。
社内から集めるべきなのは「感想」ではなく「材料」です。その材料をどう料理してユーザーへ届けるのか。そこはプロに任せるべき領域です。
だからといって、ユーザーを会議室に連れてくればいいわけではない
ここまで読むと、「では、社内の人ではなくユーザーに聞けばいいのでは?」と思われるかもしれません。
私は、それも少し違うと思っています。
本当のユーザーは会議室の外にいる。だからといって、ユーザーを会議室に連れてきて「このデザインどう思いますか?」と聞けば解決するわけではありません。
なぜなら、人は意見を求められた瞬間に役割が変わるからです。
普段ならWebサイトを数秒眺めて、「よく分からない」と思えば、そのまま離脱する人でも、「このWebサイトについて意見をください」と言われれば、真面目に画面を見始めます。
- 「文字が少し小さいですね」
- 「この写真より、こっちの写真のほうがいいかもしれません」
- 「青のほうが信頼感がある気がします」
と考え始める。つまり、利用者だった人が、意見を求められた瞬間に「分析者」へ変わってしまう。
これは普段のユーザー行動とは別物です。だから、「ユーザーの声を聞く」ことにも注意が必要です。
重要なのは、ユーザーにWebデザインを採点してもらうことではありません。ユーザーが実際にどう行動するのかを見ることです。
たとえばA案とB案、どちらにするか迷ったとします。そこで社内会議を開き、「AとB、どちらがいいでしょう?」と10人に聞く。あるいはユーザーを集めて、同じ質問をする。Aが6票、Bが4票だった。
しかし、それで分かるのは、「質問された人の6割がAを選んだ」ということだけです。
- Aのほうがサービスを理解してもらえるのか
- Aのほうが問い合わせにつながるのか
- Aのほうが応募してもらえるのか
そこまでは分かりません。
だったら、可能なものは市場に出して確かめればいい。AとBを実際のユーザーに見せて、
- どちらが読まれるのか
- どちらがクリックされるのか
- どちらが問い合わせにつながるのか
実際の行動を見る。迷ったときに必要なのは、多数決ではなくテストです。
もちろん、すべてをA/Bテストできるわけではありません。アクセス数が少なければ統計的に意味のある結果を得るのも難しいでしょう。
それでも、「会議室でどちらが良いか決める」以外にも、「市場に聞く」という方法がある。この発想を持っているかどうかは大きいと思います。
そして市場に聞くというのは、「AとB、どちらが好きですか?」とアンケートすることではありません。AとBを見せて、ユーザーが実際にどう動いたかを見ることです。
本当のユーザーは、会議室の外にいる。だからこそ、会議室へ連れてくるのではなく、会議室の外でどう振る舞うのかを見る。
Webサイトの評価とは、本来そういうものではないでしょうか。
そして、デザインを見る前に「判断基準」を決めておく
ただし、これだけでも不十分です。現実にはデザインを見た瞬間、「もっと文字を大きく」「青にしてくれ」「この写真は好きじゃない」という意見は出ます。人間ですから、これは仕方ありません。
だから重要なのは、デザイン案を見る前に判断基準を決めておくことです。少なくとも、
- 誰に見てほしいのか
- その人に何を伝えたいのか
- 最終的にどんな行動をしてほしいのか
- その成果を何で測るのか
- 最終的に誰が判断するのか
ここまでは、制作に入る前に合意しておく。そうすれば、「私はもっと青がいい」という意見が出ても、「今回のターゲットと目的から見て、青にする合理的な理由は何でしょうか」と、本来の判断軸へ戻すことができます。
好き嫌いを禁止する必要はありません。好き嫌いより上位に、目的を置いておけばいい。
これはWebサイトに限らず、企業が外部のプロに仕事を発注するときには非常に重要なことだと思います。
誰にも嫌われないサイトは、誰にも選ばれない
企業サイト制作で最も警戒すべきなのは、大きなデザインミスではないのかもしれません。
むしろ怖いのは、みんなが善意で意見を出し、担当者がそれを丁寧に拾い、役員も納得し、誰からも反対されず、きれいに社内承認を通過した結果、誰の心にも残らないサイトが完成することです。
社内レビューでたくさんの意見が出てきたら、一度だけ問い直してみてください。
この修正は、会議室の中にいる人を安心させるためなのか。それとも、画面の向こうにいる人を動かすためなのか。
Webサイトの本当のユーザーは、会議室にはいません。会議室の外にいます。
この記事を書いた人について

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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。






















