「ウチは特殊」――その一言が、変革を止めていないか

なぜ、どの業界も「自分たちは特殊」と言うのだろう?

DXや業務改革の現場で、最も耳にする言葉があります。

「うちの業界は特殊だから」

理由はさまざまです。

  • 公益性の高い事業だから
  • 金融庁などの監督官庁の管轄だから
  • 多品種少量・受注生産だから
  • 業界特有の商慣習があるから
  • 例外処理が多いから
  • 結局、ベテランに聞かなければ分からないから

一つひとつ聞けば、なるほどと思うものばかりです。しかし、ほとんどの業界が「自分たちは特殊だ」と言います。

すべての会社が、それほど特殊なのでしょうか。

本稿は「特殊性は存在しない」という話ではありません。本当に特殊な部分と、特殊だと思い込んでいる部分を分けて考えないことが、企業変革を難しくしています。これが今回のテーマです。


1.「特殊だから」から「変えられない」への飛躍

「うちは特殊だから」という言葉が厄介なのは、多くの場合、それ自体は間違っていないことです。

公益事業には公益事業の制約がある。金融庁などの監督下にある事業には、一般企業以上の統制が求められる。お金を計算するシステムなら、計算間違いを「多少は仕方ない」で済ませられない。

「特殊な事情がある」までは正しい。問題は、その先です。

特殊な事情がある

一般的な方法は使えない

標準化できない

システム化も難しい

だから今のやり方を大きく変えることはできない

論理はここまで簡単に飛躍します。

会社全体が特殊なのではありません。特殊なのは、業務の一部分であることがほとんどです。規制産業の企業であっても、法令に基づくチェックや計算ロジックが特殊なだけで、データを入力する、承認する、集計する、帳票を作るといった周辺業務まで、その業界にしか存在しないわけではありません。

この切り分けをしないまま「うちは特殊」と一括りにすると、本来なら変えられる部分まで聖域になります。


2.「特殊」は4種類に分けられる

「特殊」と呼ばれているものは、次の4種類に分解できます。

  1. 守るべき特殊性――法規制、安全性、会計・金融上の統制、監督官庁への対応。無理に標準化してはいけません。システムや業務の側が合わせるべき条件です。
  2. 競争力になる特殊性――独自の商品設計、サービス、ノウハウ、顧客対応、製造技術。他社との違いを生み出しているなら、積極的に残すべきです。
  3. 仕方なく残っている特殊性――古いシステムの制約、過去の経緯、昔の組織体制、取引先との長年の取り決め。「なぜこうなっているのか」に、現在では明確な理由を説明できないことがあります。
  4. 特殊性に見えるだけのもの――紙、Excel、二重入力、複雑な承認ルート、担当者独自の判断、ベテランしか知らない手順。長年その会社にいると当たり前に見えますが、外から見れば別の業界でも頻繁に見かける課題です。

変革において守るべきなのは①と②。疑ってみるべきなのは③と④です。

問題は、この4つを見分けずに「特殊」の一言でまとめてしまうことです。

もう一つ注意したいのが時間軸です。20年前には独自の仕組みを一から作らなければ実現できなかった仕事が、現在ではSaaSやクラウドサービス、API、パッケージ製品で普通に実現できることがあります。「昔は本当に特殊だった」ものが「現在では普通になっている」可能性は、常にあります。

「専用システムでなければならない」「パッケージでは対応できない」――それは現在でも本当にそうなのか。システム刷新では、ここを一度疑う必要があります。


3.「特殊」は属人化の言い訳にもなる

さらに注意が必要なのが、「この仕事は特殊だから、○○さんにしかできない」というケースです。

高度な専門性を持つ人にしかできない仕事は、確かにあります。しかし分解してみると、

  • 判断基準が文書化されていない
  • 過去の経緯を一人しか知らない
  • 情報が個人のメールやExcelに閉じている
  • 引き継ぎの仕組みがない

という整理不足の結果として、「その人にしかできない仕事」になっていることも少なくありません。これは専門性の高さとは別の問題です。ここを混同すると、属人化まで「業界の特殊性」として温存されます。

変革を失敗させるのは、特殊性を乱暴に切り捨てることと、特殊性をすべて受け入れて何も変えないこと、その両方です。必要なのは、特殊性を否定することではなく、見極めることです。


4.すべき質問は「特殊ですか」ではない

経営者やプロジェクト責任者が聞くべきなのは、「この業界は特殊ですか?」ではありません。答えは必ず「特殊です」になります。

そうではなく、「具体的に、どの部分が特殊なのか?」と聞くべきです。さらに、

  • それは法令で決まっているのか
  • 顧客価値につながっているのか
  • 昔からそうしているだけではないのか
  • 標準化すると、具体的に何が困るのか
  • その例外は年間何件発生しているのか

と掘り下げる。この5つの質問だけで、「特殊」という大きな塊は分解できます。

すべてを標準化する必要はありません。※以下の「20%・80%」は実証的な数字ではなく、考え方を示す比喩です。本当に特殊な20%を守るために、普通の80%を標準化する。一般化できる仕事を一般化し、システムに任せられるところを任せ、属人化を解消できるところを解消する。それによって、人とお金と時間を、本当に特殊で価値のある部分へ振り向けられます。

これは「自社らしさを捨てる」こととは正反対です。本当に残すべき自社らしさを選ぶ作業です。


まとめ|捨てるべきなのは「特殊性」ではなく、「特殊だから仕方がない」という思考

公益事業には公益事業の、金融には金融の、多品種少量生産や受注生産にもそれぞれ固有の特殊性があります。それを無視して一般論で片付けるべきではありません。

しかし、「特殊な部分がある」ことと「だから今のやり方を変えられない」ことは、別問題です。

守るべき特殊性なのか。競争力になる特殊性なのか。過去の事情で残っているだけなのか。特殊に見えているだけなのか。それを一つずつ分解することから、企業変革は始まります。

特殊性を捨てる必要はありません。本当に特殊で、企業の価値につながっている部分は残すべきです。捨てるべきなのは、「うちは特殊だから仕方がない」という思考停止です。

「うちは特殊」を、一度分解してみませんか

「この業界は特殊だから、一般的なやり方は通用しない」

そう考えている業務やシステムほど、一度、第三者の目で整理してみる価値があります。

この切り分けは、社内の議論だけでは進みにくいものです。長くその業務を担ってきた人ほど、「特殊」と「慣れ」の境目を自分では判断しづらく、これは能力や誠実さの問題ではなく、当事者である以上、構造的に避けられないことです。加えて、部門ごとに立場や利害が異なるため、社内の話し合いだけでは「どちらの言い分が正しいか」の水掛け論になりやすい、という事情もあります。

だからこそ、業務にもシステムにも直接の利害を持たない第三者が、経営・業務・システムの3つの観点から整理することに意味があります。

オーシャン・アンド・パートナーズでは、特定の製品やシステムを売ることを前提とせず、「何を残し、何を変えるべきか」という発注前の判断からご支援しています。システム刷新やDX、業務改革を考えているものの、「自社は特殊だから」と話が止まっている場合は、一度ご相談ください。

まずは、自社の「特殊」を一緒に分解するところから始めましょう。

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この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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