オーシャン代表・谷尾薫について|「仕事の仕方は、ITだけで身についたものではないと思います」

IT業界で30年以上、2007年にオーシャン・アンド・パートナーズを創業。
企業のITプロジェクトを発注側から支援する谷尾に、仕事について聞いていると、ITとは直接関係のない話がよく出てきます。

  • 飲食店を営んでいた両親。
  • 熊本・天草で過ごした少年時代。
  • 50年以上続けている釣り。
  • 4件の難航プロジェクトを同時に抱えた経験。
  • 会社経営。そして、4人の子育て。

それらは、現在の仕事とどうつながっているのでしょうか。
今回は、代表・谷尾のこれまでの経験と仕事観を、インタビュー形式でまとめました。


商売人の家庭で育った

ご実家は、商売をされていたそうですね。

両親が飲食店をやっていました。

私は大阪で生まれて、小学生の頃から熊本県の天草で育ったのですが、家系としても代々商売人です。

子どもの頃から、お客様が来るところも、両親が忙しく働いているところも、その日の商売が終わるところも身近にありました。

天草では、地域そのものが大きく変わっていく様子も見ました。

  • 地元の炭鉱が閉山すると人口が減る。
  • 一方で火力発電所の建設が始まると、たくさんの人がやってきて街が活気づく。
  • でも、完成すればまた人が去っていく。

街が変わると、お客様も変わる。当然、商売も影響を受けます。
子どもの頃にどこまで理解していたかは分かりませんが、そういうものを身近で見ていたことは、今の仕事にも多少影響していると思います。

現在も、ITより先に「その会社の商売」を見ようとしますね。

そうですね。システムの相談を受けても、システムだけを見て考えるのは、あまり得意ではないんです。

誰がお客様なのか。何を売っているのか。どうやって利益が生まれているのか。これからその商売はどう変わりそうなのか。

そちらが気になります。システムは、その商売を支える仕組みの一つですから。

例えば、システムを刷新する話でも、現行システムの機能をそのまま移すことが正解とは限りません。

その機能が、今の商売に本当に必要なのか。これからも必要なのか。

そこを考えないままシステムだけ新しくしても、会社にとってはあまり意味がないと思うんです。

システムの前に、商売を見る。


釣り歴50年。自然はこちらの仮説に合わせてくれない

もう一つ、長いのが釣りですね。

50年以上になります。

中学、高校の頃は、学校から帰ったら釣竿を持って海へ行っていました。
一時期は本気で漁師になりたいと思っていたくらいです。

今でも続けています。

以前、釣りと仕事は似ているという話をされていました。

似ているところはあると思います。

釣りって、変数がものすごく多いんです。

潮、風、水温、気圧、季節、時間、地形。昨日ここで釣れたからといって、今日も同じように釣れるとは限らない。

魚に聞くこともできませんから(笑)。

だから状況を見て、「今日はこうなんじゃないか」と仮説を立てます。

仕掛けを変える。場所を変える。狙い方を変える。

それで結果を見る。違っていたら、また変える。

自然はこちらの理屈に合わせてくれません。自分の仮説が間違っていたら、変えるのは自分の方です。

仕事でも、最初から答えを決めることを嫌いますね。

嫌うというほどではありませんが(笑)、最初に答えを決めてしまうのは怖いですね。

例えば「このシステムを入れたい」という相談でも、本当にそれが必要なのかは一度考えたい。

現場を見たり、話を聞いたりすると、最初に想定していた問題とは違うこともあります。

仮説は必要です。でも、仮説を守ることが仕事ではない。

現場を見て違っていたら、変えればいい。

その感覚は釣りと近いかもしれません。

それと、釣りにはもう一つ分かりやすいところがあります。

どれだけ潮を読んで、素晴らしい仮説を立てても、魚が釣れなければ結果は出ていないんです。

仕事も、考えて終わりではいけないと思っています。

仮説を立てる。現場で確かめる。違っていたら変える。


正論だけでは、プロジェクトは動かない

仕事の仕方に大きな影響を与えた経験はありますか。

35歳くらいの頃の経験は、今でも自分のベースになっています。

転職した会社で、難航していたシステム開発案件を、同時に4件引き継ぐことになりました。

いわゆる炎上案件ですね。

納期が遅れている。お客様は怒っている。開発側も疲弊している。会社としては採算も考えなければならない。

そんな案件が、一度に4件です。

お客様の経営者から、激しい罵声を浴びせられたこともありました。

当然ですが、こちらにも言い分はあります。でも、その場で正論を返したところで、何かが解決するわけではありません。

どのように立て直していったのでしょうか。

一つずつ、絡まった糸を解きほぐしていくような作業でした。

何が起きているのか。どこで話が食い違っているのか。何を決めなければならないのか。

それを整理していく。

ただ、全体を整理すれば済むわけでもありません。

関係者それぞれの事情があり、譲れないこともある。ほんの小さな条件の違いで、話が進まなくなることもあります。

複雑に絡み合った糸を解きほぐす一方で、小さな針の穴に糸を通していくような仕事でもありました。

相当厳しい状況だったのではありませんか。

厳しかったですね。

明け方までプロジェクトの指揮を取って、30分ほど仮眠して、そのままお客様のところへ向かう。そんなことが何度もありました。

もちろん、今になって考えれば、決して望ましい働き方ではありません。

当時は、いつまでこんな日々が続くんだろう、という気持ちでした。

出口が見えないんです。

偏頭痛にもずいぶん悩まされました。

それと、責任者という立場の孤独も感じました。

もちろん、一人で仕事をしていたわけではありません。むしろ、メンバーにどれほど支えられているかを実感した時期でもありました。

でも、お客様の経営者と向き合う場面では、最後は自分一人で対峙しなければならない。

その両方を、痛いほど感じました。

4件とも、最後まで担当されたのですね。

はい。全部終わらせました。

すべて収束するまで、1年くらいかかったと思います。

最初は私を激しく罵倒していた経営者の方が、最後には「ありがとうございました」と言ってくださったんです。

あの言葉は、今でも覚えています。

その経験から、何を学びましたか。

一つは、正しいことを言うだけでは、プロジェクトは動かないということです。

技術的な正解があっても、会社には予算があり、立場の違う人がいて、当然、感情もあります。

だから、混乱しているときほど「誰が悪いか」ではなく、今、何を決めなければならないのかを考える。

何が事実で、何が推測なのか。誰が判断するのか。その判断によって、何が動き始めるのか。

そういうことを一つずつ整理していくしかありません。

もう一つは、最後まで関わるということですね。

当時の姿を知っている仲間が、お客様に「谷尾は最後まであきらめない人だから、一緒に仕事をしている」と話してくれているのを、何度か耳にしました。

自分でそんなことを言うのは気恥ずかしいですけど(笑)。

ただ、そう見てくれていたことは、ありがたいですね。

その経験が、今のオーシャンの仕事にもつながっているのでしょうか。

そうですね。間違いなく原点の一つです。

ただ、もう一つ強く思ったことがあります。

もう二度と、こんな状況を作ってはいけない。

ということです。

最後まであきらめなかったことは、自分なりにやり切ったと思っています。でも、そもそもあそこまで追い込まれなければならなかったのか。

もっと早い段階で、何かできなかったのか。

そういう思いが強く残りました。

プロジェクトが難航する理由はさまざまです。技術的な問題もありますが、最初の目的が曖昧だったり、関係者の認識が違っていたり、決めるべきことが決まっていなかったりする。

そういう問題を抱えたまま進めれば、後になって大きな負担になることがあります。

だから今は、プロジェクトが始まる前の構想や業務整理、何をするか、何をしないかという判断を大切にしています。

もちろん、どれだけ準備しても想定外のことは起きます。そのときには逃げずに向き合う。

でも、本当に大切なのは、最後まであきらめなければならない状況を、できるだけ作らないことだと思っています。

正論だけでは、プロジェクトは動かない。だからこそ、正論だけでは済まなくなる前に考える。


40歳で独立。発注側に立つという選択

40歳になる年に会社をつくっています。

2007年ですね。

第一子が生まれたのも同じ年です。

今考えると、なかなかのタイミングです(笑)。

なぜ独立したのでしょう。

会社員として仕事をしているなかで、会社の商品や都合ではなく、もっとお客様の側から考えたいという思いが強くなったからです。

会社にいれば、当然ですが、自社の商品やサービスがあります。

でもお客様から見れば、「何を買うか」は本来その後の話ですよね。

そもそも何が問題なのか。何を変えたいのか。そのためにITが必要なのか。

そこから考えたかった。

だから、自分で会社をつくりました。

現在もオーシャンには自社製品がありません。

ありません。

特定のメーカーにも属していません。

システム化しない方がよければ、それも選択肢です。

必要なら業務を整理して、RFPをつくって、ベンダーを選ぶ。実装が必要なら、そこにも関わる。

何かを売ることから始めるのではなく、

「この会社は、何をするべきなのか」

をお客様と一緒に考える。

創業から約20年経ちますが、ここはあまり変わっていません。


4人の子育ては、現在進行形

仕事以外では、現在も子育ての真っ最中ですね。

そうですね。4人います。

一番上は大学生で、一番下はまだ0歳です。

かなり長いこと子育てをしていますが、まだ終わる気配がありません(笑)。

子育ても仕事に影響していますか。

そこは、あまり格好よく仕事に結びつけない方がいいと思います(笑)。

仕事では「仮説を立てる」とか「計画する」とか言っていますけど、子どもには簡単にひっくり返されます。

同じ親から生まれても、一人ひとり全然違います。

上の子でうまくいったことが、下の子にも通用するとは限らない。

こちらが正しいと思っていることが、相手にとって正しいとも限らない。

そういうことは、日々思い知らされています。

子育ては終わりのないプロジェクト、くらいに考えています。

今も、その途中です。


仕事をするときに大切にしていること

最後に。仕事をするとき、大切にしていることを挙げるとすれば?

難しいですね。

振り返ってみれば、そんなに特別なことではないと思います。

まず、その会社の商売を見る。

分からなければ、仮説を立てる。

現場で確かめる。

違っていたら変える。

そして、考えただけで終わらせず、実際に動くところまで持っていく。

でしょうか。

ITはどんどん変わります。

会社も変わるし、お客様も商品も変わる。

だから、「これが正解です」という完成した答えを持ってお客様のところへ行くより、

その会社にとって、今何をするべきなのか。何をしない方がいいのか。

そこから一緒に考える方が、私は面白いですね。

その考え方は、現在のオーシャンにも引き継がれているのでしょうか。

そうですね。

もちろん、メンバーそれぞれに経験も専門性も違いますから、私と同じ考え方をしているわけではありません。

ただ、特定の製品や技術を売ることから始めない。お客様が何をしたいのか、そのために何を変える必要があるのかを考える。

そして、構想や提案だけで終わらず、必要であれば実装まで関わる。

そういう仕事の仕方は、会社として大切にしています。

お客様にとっては、私がどんな経験をしてきたかよりも、オーシャンと仕事をすると何が違うのか、ということの方が重要ですから。

そこは、これからも仕事の中で示していきたいですね。


谷尾 薫|Kaoru Tanio

オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア 代表理事

IT業界30年以上。富士通、日本オラクル、コンサルティング会社等を経て、2007年にオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。

発注側の立場から、システム構想、業務整理、RFP作成、ベンダー選定、プロジェクト推進などを支援。特定の製品やソリューションを前提とせず、企業が「何をするか」「何をしないか」を判断するところから、必要に応じて実装まで伴走しています。

オーシャン・アンド・パートナーズの仕事について

私たちは、システムを導入すること自体を目的にせず、企業が何を変えるべきかを考えるところから支援しています。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。

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